ハリウッド映画と米国の政治経済

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2024年06月21日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

米国は、ポップカルチャーにおける古典を大事にする国である。

そのことは、米国の政治経済で用いられる「パワーワード」、「パワーフレーズ」が、古典と位置付けられるハリウッド映画のタイトルやセリフを元ネタにしている(と思われる)ことからも強くうかがえる。

ここでは、そうした事例を三つ、紹介する。

一つ目は、かの「9.11」(2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件)の直後、ブッシュ米国大統領(当時)が、大統領の保養地であるキャンプ・デービッドにてメディアに向けて発した、‘We will smoke them out of their holes’というフレーズである。「テロリストを隠れ家から炙り出す」、という意だろう。

ブッシュ氏は、この‘smoke them out’というフレーズを、その後も何度か使っている。
このフレーズは、故ジョン・ウェイン氏主演の西部劇映画、「100万ドルの血斗(Big Jake)」(1971年公開)の劇中のセリフを意識したものではないかと、筆者は考えている(真相は不明)。

故ジョン・ウェイン氏は熱烈な共和党支持者であったことが知られており、共和党政権の大統領であったブッシュ氏との親和性は高かったといえよう。

二つ目は、ここ一年ほどよく耳目にした、「壮大な7社」、すなわち‘Magnificent 7’である。ここでいう「7社」は、アップル、マイクロソフト、アルファベット(グーグルの持株会社)、アマゾン・ドット・コム、エヌビディア、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、テスラの米テック7銘柄をいう。

このワードは、昨年5月、バンク・オブ・アメリカのチーフ・インベストメント・ストラテジスト、マイケル・ハートネット氏が投資家向けメモで初めて記したとされている。同氏はメディアに対し、故ユル・ブリンナー氏主演の西部劇映画、「荒野の七人(The Magnificent Seven)」(1960年公開)にちなんだと明かしている。

米国経済を牽引する「壮大な7社」を、盗賊に抑圧されるメキシコの村人たちを救う7人の凄腕ガンマンに見立てた、ということだろう。

ちなみに、今年の4月あたりから、その株価動向から、「7社ではなく4社」という風潮が強まり、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、エヌビディア、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)の4社を、「素晴らしい4社」、すなわち‘Fab 4’(※1)と総称することがある。これは、ビートルズのメンバー4人の愛称が元ネタとなっている。

最後の三つ目は、今年の一大行事である、米国大統領選挙関連のネタである。

先月、民主党候補者のバイデン大統領と、共和党候補者のトランプ前大統領は、6月27日(CNN主催)と9月10日(ABC主催)に、テレビ討論会を実施することで合意した。これを受けて、バイデン大統領は、公式のSNSアカウントを通じて、トランプ前大統領に対し、‘Make my day’と挑発している。「楽しませてくれ」、という意だろう。

このフレーズは、クリント・イーストウッド氏主演のアクション映画、「ダーティハリー(Dirty Harry)」(1971年公開)の劇中のセリフを意識したものではないかと、筆者は考えている(真相は不明)。

このセリフが発せられたシーンは、現在の観点からすると、ポリティカル・コレクトネスが欠如した、極めて刺激的なものである。それだけ、バイデン大統領による挑発の度合いが強い、というニュアンスを受け取ることができる。

これらの元ネタは、いずれも、1960年代から1970年代にかけてのハリウッド映画である。未だにこうして政治経済の場面で引用されている(と思われる)ことから、いかに、これらのコンテンツが、米国に深く根付いているかがわかる。これらの元ネタを知る必要は全くないが、知っているとクスッと笑えるという特典がある、と筆者は考える。

(※1)‘Fab’は‘Fabulous’を省略した表現である。

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ニューヨークリサーチセンター

主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光