少子化は加速しているか

RSS

2024年06月17日

  • 調査本部 常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

こどもの数(15歳未満人口)は、1982年から43年連続で減っている。こどもが総人口に占める割合にいたっては、1975年から50年低下し続けている。少子化は超長期のトレンドであり、趨勢だからこそ簡単には変わらないし変えられない。2023年の合計特殊出生率が過去最低の1.20になったと厚生労働省から6月5日に発表され、少子化が加速していると受け止めた人が多いようだ。

ただ、ここ数年の出生率は新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている。コロナ禍によって家族の重要性が見直され、パートナーとの支え合いが求められるようなったと言われたが、実際は婚姻が減った。コロナ禍が結婚の前倒しをせまった効果よりも、結婚の延期や交際の解消を増やし、出会いを減らした効果の方が大きかった。

いくつかの調査によれば、結婚後数年以内に1人目のこどもが欲しいと考える夫婦が多く、これまでその通りの出産行動がみられた。少子化の進行は婚姻が減っている要因が大きいのだが、2020年以降の婚姻率や婚姻件数が下方へレベルシフトしたため、出生率が下がり、出生数がさらに減ったのも当然だ。新型コロナウイルス感染症が感染症法上の5類に移行されて、1年しかたっていない。コロナ禍は終わっておらず、その影響は当面続くだろう。

ここまでの話は、直近で生じた少子化トレンドからの下方への乖離は、原因がある程度はっきりしており、一時的なものではないかという見立てである。数年かけてコロナ禍の影響が一巡し、賃上げが進んでいけば、婚姻や出産はトレンドまで反転していく可能性が十分ある。だが、トレンド自体を上向かせることは見通せていない。国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」(2021年)によれば、こどもを持つことを自然なことと考える人が、未婚者でも既婚者でも男女とも最近減っている。

「子に過ぎたる宝無し」という諺があるように、親(大人)が子たちを慈しむことを称賛してきた日本社会で、子への情愛が減退しているとは思えない。社会を分断する“子持ち様論争”には物悲しさがあり、少子化が少子化を招く悪循環が生じているとしたら、そのメカニズムの解明が急がれる。出生率が高い地方部から出生率が低い都市部へ人口が移動しているのが問題という議論もあるが、好ましい就労・稼得や自由な生き方を享受できる機会が子育ての機会費用を高めるのは自然なことで、都市部が悪いわけではまったくない。

平均所得が高い都市部の出生率が低いことからも、給付金や補助金による子育ての経済的な支援だけでは少子化トレンドを反転させられないだろう。若年女性の流出が課題の地域では、コミュニティに滲みわたっているオールドボーイズネットワーク型の慣習・文化を打破しなければ事態は変わるまい。まずは、都市部を含めて、家事・育児の負担が女性に偏っている状況を徹底的に改めるだけでも、希望出生率の実現にかなり近づくのではないか。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

鈴木 準
執筆者紹介

調査本部

常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準