配当方針のトレンドに変化?

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2024年06月14日

6月の株主総会シーズンを前に、株主への利益還元の方針を変更する企業が増えている。表題に「配当方針(または配当政策)」や「株主還元」を含む開示を4-5月に行った上場企業数は123社と、昨年(88社)、一昨年(57社)を大幅に上回った。

その開示の内容を見ると、今年はこれまでと傾向が少し異なっている。昨年や一昨年は、新たに特定比率での数値目標を設定したり、既に採用している比率の目標値を引き上げたりするケースが多く、特に昨年は開示の約7割がこれに該当した。今年もこの比率は高いものの、5割程度に低下している。代わりに目立ってきたのが、「累進配当(配当金の水準を維持または引き上げる方針)」、「1株あたり配当金(年間)の下限」、「株主資本配当率(Dividend On Equity ratio:DOE)」の語句だ。これらいずれかに方針を変更したり、配当性向などこれまでの方針に追加したり、新たに具体的な目標として掲げたりする動きである。開示件数に占める比率は昨年の34%から今年は42%に上昇している(注:「配当性向30%とDOE2.5%を目標として新たに設定する」のような例もあり、比率の合計は100%を上回る)。昨年は一昨年に比べてDOEの比率が上昇していたが、今年はその流れに「累進配当」が加わった。

累進配当・下限・DOEの採用は、投資家にも企業にもメリットがありそうだ。配当性向に比べ、これらは配当金が業績(当期純利益)変動の影響を受けにくいため、投資家は配当利回りに基づく投資判断ができる。また、企業にとっては、今後、業績が悪化して株価が下落する局面を迎えても、配当利回りの魅力が高まることで、株価が落ち着くことを期待できる。業績拡大ペースの鈍化や反動減を見込む企業では、今後、配当性向よりも業績の影響を受けにくいこれらの方針を採用するケースが増えるだろう。

もっとも、累進配当・下限・DOEの場合は、投資家に「今後利益が増加した場合、配当金はどの程度増えるの?」と見通しの分かりづらさを印象付けてしまうおそれがある。投資家とのコミュニケーションの質を高めるという点では、マイナスにもなりそうだ。かつて、配当方針に多かった「安定した配当」の表現は、配当金の水準を維持することなのか、それとも減配してでも配当を継続することなのかと解釈に幅があり、分かりやすい表現ではなかった。そのような過去に戻らないためにも、特に「累進配当」や「下限」を採用する企業は、配当性向等のように業績に連動しやすい配当方針と併せることが望ましいと考える。

株主への利益の還元には「これ」といった正解はなく、各社が自社事業の特性や財務状態等で決めるものである。同業のライバル企業よりも魅力ある株主還元方針を企図する企業もあるだろうが、還元比率の高さよりも、掲げた方針の背景にある成長戦略や財務戦略等の内容と、それを投資家にどれだけ分かりやすく伝えるかが、ますます重要になってくるだろう。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏