中国:「新質生産力」と過剰生産、過剰債務、貿易摩擦問題
2024年06月10日
「新質生産力」とは、2023年9月に習近平総書記が黒龍江省を視察した際に初めて言及した言葉である。2024年3月の第14期全国人民代表大会(日本の国会に相当)第2回会議の政府活動報告では、10項目の重点活動任務の筆頭に「現代的な産業システムの構築を大いに推進し、新質生産力の発展を加速させる」ことが掲げられた。新質生産力の発展は目下の最重要政策といってよいだろう。
「新質生産力」の特徴は、高度な技術、高い効率、高い品質が挙げられる。そして、その原動力は、①イノベーション、②産業の高度化、③生産要素の質と配置の改善、であり、それらを牽引役に質の高い発展を実現するのだという。②では、サプライチェーンの強化、伝統産業の改造、新興産業と未来産業の育成、デジタル経済の推進などが実施される。
「新興産業」で念頭に置かれているのは、2010年~2015年の第12次5カ年計画で提唱された「戦略的新興産業」であろう。具体的には、(1)省エネ・環境保護、(2)新世代情報技術、(3)バイオ、(4)ハイエンド設備製造、(5)新エネルギー、(6)新素材、(7)新エネルギー自動車、が重点7分野に指定された(2018年にデジタルクリエイティブ産業と関連サービスが加えられた)。中でも、(5)の太陽光パネル・モジュール、(7)の電気自動車(EV)の発展は凄まじく、ともに現在では輸出の「新御三家」に数えられている(残りはリチウムイオン電池)。
「未来産業」に関連して、2024年1月に「未来産業の革新的発展の推進に関する実施意見」(中国工業情報化部など)が発出されている。「未来産業」の6分野には、製造、情報、材料、エネルギー、(宇宙)空間、ヘルスケアが掲げられた。
詳細は下表の通りであるが、中国ではこうした党・政府のお墨付きの重点産業への投資が急増することが多い。2024年5月には、資本金3,440億元(約7.4兆円)の半導体産業向け投資ファンド「国家集積回路産業投資基金第三期株式有限会社」が設立された。それがうまくいくかどうかは別問題とはいえ、こうした巨額の資金投入がトップダウンで機動的に決められることは強みのひとつであろう。ただし、その故にその産業が過剰生産に陥りやすいことも認識する必要がある。これが貿易摩擦問題などで対外的な軋轢を生むこと(2024年5月14日に米国が「新御三家」を含む中国からの輸入品180億米ドル相当に追加関税を課すとしたことは記憶に新しい)、過剰投資の裏には過剰債務問題が存在していることにも留意が必要であろう。結局のところ、中国の産業政策はある程度うまくいくが、その副作用も大きくなることが常態化しているように思える。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

- 執筆者紹介
-
経済調査部
経済調査部長 齋藤 尚登