金価格の最高値更新は波乱の前触れなのか?
2024年05月10日
足元で金価格の上昇が目立つ。国際金価格では、今年4月にニューヨーク市場の先物(直近限月)で1トロイオンス(約31グラム)当たり2,300ドルを超えるなど、史上最高値の更新が続いている。国内の金価格は為替の円安も加味されさらに上昇が顕著であり、昨年初めて1グラム当たり10,000円の大台を突破した後、今年に入って一時同13,000円台にまで達した。
最近の金価格高騰の背景としては、世界的にデフレやディスインフレの時代が終わり、インフレ対応資産としての評価が高まっていることがまず挙げられる。金価格の推移を過去50年あまりで見ると、米国の代表的な株価指数であるS&P500指数の上昇率にもそれほどそん色がない。一方で、地政学リスク等に伴う世界経済の先行き不透明感は、安全資産としての金の評価が高まる要因になっているとみられる。さらに、一部の国では、これまで米ドルで保有してきた外貨準備を金に置き換えるために調達を進めており、その結果、需給がタイトになっているようだ。このような中での金の史上最高値更新にはどのような意味があるのだろうか。
そこで、過去において国際金価格が史上最高値を大きく更新したような場面を振り返ると、気になるパターンが見いだせる。例えば、1972年の高値更新は、翌年に為替市場が変動相場制に移行し、翌々年には第1次石油危機が到来した。1978年の高値更新は、翌年に第2次石油危機が到来した。2007年の高値更新は、翌年にリーマン・ショックが発生した(図表参照)。これだけを見ると、金価格の最高値更新は、世界経済にとって大きな波乱の前触れとなってきたようにもみえる。
足元の世界経済に関して、主要なリスク要因として米国の景気後退や世界的なインフレ再燃、新興国発の経済危機などが挙げられている。金価格の動きは、それらのリスクについて、市場参加者が警戒感を強めていることを反映したものであろうか。あるいは、まだ明らかでない波乱の芽について、懸念を高めつつあるのだろうか。
人類の長い歴史の中でも、金は古くから世界中で幅広くその希少性や価値が認められてきた稀有な存在といえる。末長い価値の保持を期待される金における大きな価格変化は、見逃すべきではないだろう。今後の世界経済に何が起こるのか、あるいは既に起き始めているのかについて、より一層の注意を払う必要がある。
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経済調査部
シニアエコノミスト 佐藤 光