まもなく10年を迎えるフィンテックの行方

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2024年05月01日

金融とテクノロジーとを組み合わせたフィンテックをめぐる議論・取組みが日本において開始されてから、まもなく10年の時間が経過する。2014年9月に金融担当大臣から金融庁の金融審議会に対して、決済業務等の高度化に関する検討が諮問され、同年10月から、専門のスタディ・グループにおいてフィンテック関連の審議検討が進められた。これが、今も続くフィンテックをめぐる日本での議論・取組みの嚆矢となった。

言うまでもなく、フィンテックの背景にはITの進展という事象がある。例えば、スマートフォンやクラウドコンピューティングの普及などの技術的な環境の下で、事業者は、従来に比べてコストを掛けずに新たな金融サービスを開発して広く提供し、短期間のうちに大量の顧客をネットワーク化することが可能となった。

こうした動きは金融ビジネスに大きな変容をもたらし、例えば、金融サービスは今後一層、大衆化・民主化していくことが考えられる。しかし、これは同時に、金融サービスが汎用化の度合いを強め、場合によっては、コモディティ化しかねないことをも意味する。事業者にとっては、その中でどうビジネスモデルを構築し、収益を確保していくかが課題となってくる。

思い起こせば、フィンテックの1つの眼目は、金融サービスが果たす機能をアンバンドリング(分解)し、それらを顧客ニーズに対応する形で適切にリバンドリング(再結合)して提供することにより、サービスの高度化を図ることにあった。そして、この過程においては、金融分野のサービスだけでなく、非金融分野のサービスをも組み合わせて顧客のニーズに対応していくことが展望され、それを可能にするための金融関連法制の整備なども行われた。今後は、様々な組み合わせを通じてどれだけ魅力あるサービスを提供できるかが問われていくことになるだろう。

また、フィンテックをめぐっては、ITの進展に伴って蓄積されてくる様々な情報を有効に活用していくことがその核心だともされてきた。取引情報などを活用して広告・マーケティング活動を充実させるといった動きはもともと顕著だった。しかし、それを越えて、情報の活用によって金融サービス自体の高度化を図るとの観点からすると、当初の期待に比して、まだ十分に魅力的なビジネスモデルが構築されているとは言い難いのではないかと感じている。

それでも近時、オープン・イノベーションに向けた事業者間の連携は強化され、企業が提供するサービスの中に金融機関のサービスを組み込む、いわゆる組み込み型金融の動きなども本格化してきた。また、今後、AIの活用が一層拡がり、これまで手付かずだった様々な情報が分析・活用され、それが新しい金融サービスの提供につながっていく可能性も格段に高まっていくことだろう。分散型台帳技術の活用の高度化ということもある。当初の思惑とは異なって随分、時間が掛かったとの印象は免れないが、10年にしてようやく本格始動に向けた変化の兆しが現れてきているのだと期待したい。

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池田 唯一
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専務理事 池田 唯一