「一時的ブーム」と「持続的トレンド」 どう見極める?
2024年04月22日
「一時的ブーム」か、あるいは「持続的トレンド」なのか、は頻繁に議論になる問いである。株式市場、テクノロジー、ファッション、芸能など様々な分野で起こる。何度もブームを繰り返しながらトレンドが生み出されていくわけで、長い目で見れば、あまり気にする必要はないという捉え方もあろう。ただ、人々の行動や感情は短期的なブームに少なからず影響されるのが現実で、ゆえに冒頭の議論が繰り返される。
株式市場のブームは、市場全体で行き過ぎれば「バブル」と呼ばれる状態に至るが、その局面でバブルかどうかは判別がつきにくい。最終的にバブルだったのか否かは、しばらく経ってから定義されることが多いだろう。
一方、テクノロジーの世界でも頻繁にブームが起きる。典型例として「AI」がすぐに思い浮かぶ。これまで何度もAIブームが起きてはしぼみを繰り返してきた。「今度こそ本物だ」と思っても、持続性がなかったりした。今回の「生成AIブーム」はしぼむことはないのか?と素朴に思うこと人もいるだろう。また、EV(電気自動車)ブームもある。足もとで世界的にEV販売の鈍化傾向が見られているが、EV販売の拡大は気候変動対策の一つの象徴としての位置づけもあるだけに議論が分かれるところだ。
以上、いくつか挙げてみたが、いずれも根拠を示しながら「今回は持続性がある」という見方をする評者も多い。しかし、それに対して懐疑的に思う人も少なくないだろう。
いずれにせよ、ブームの持続性を見極めることは甚だ困難であるが、個人的には、株式相場の格言が一つの参考になると考えている。
「強気相場は悲観のなかで生まれ、懐疑のなかで育ち、楽観とともに成熟し、陶酔のなかで消えてゆく」(ジョン・M・テンプルトン)(※1)
一般的なブームに当てはめれば、ブームに乗る人が増えれば増えるほど、そのブームは収束が近づき、むしろ、ブームに懐疑的な人が多い状態のほうが長続きする、ということになろう。人々の心理や行動がどういう状況かを観察することが役に立つのではないか。株式市場のみならず、テクノロジーなど他分野におけるブームにも当てはまるはずだ。
ブームに対しては、素直に乗る人と、慎重になる人の両タイプがいるだろう。日本全体を考えたとき、どちらかと言えば後者タイプが多いようにも思える。筆者もその一人である。もしかしたら、90年代のバブル崩壊の反省や後悔に起因する面もあるかもしれない。
ただし、ブームに対して最初から全く見向きもしなければ、持続的トレンドにも乗れない可能性が高まる。それだけは念頭に置いておきたいものだ。
(※1)Lauren C. Templeton & Scott Phillips (2008) “Investing the Templeton Way: The Market-Beating Strategies of Value Investing's Legendary Bargain Hunter,” McGraw-Hill Professional(ローレン・C・テンプルトン,スコット・フィリップス(著) 鈴木敏昭(訳)(2010).『テンプルトン卿の流儀—伝説的バーゲンハンターの市場攻略戦略』パンローリング p.7)
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調査本部
常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰
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