「純投資」か、「純投資」でないか、それが問題だ?

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2024年04月03日

金融商品取引法の研究者の甲とその旧友で上場会社の総務部長の乙との対話

甲:2024年2月13日、鈴木俊一財務大臣兼内閣府特命担当大臣は、閣議後の記者会見で、損害保険会社が保有する政策保有株式に関連して、「政策保有株式の売却の加速は重要である」(※1)との見解を示した。金融機関等が保有する政策保有株式の縮減に対する関心がさらに高まることだろう。

乙:それに関連して、甲に聞きたいことがある。ある金融機関が、わが社の株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更したいと言ってきたのだ。

甲:大和総研の調べ(※2)では、2018年から2022年にかけて、金融機関が保有する政策保有株式の銘柄数、貸借対照表計上額の合計額、純資産比のいずれについても縮減傾向が認められ、政策保有目的から純投資目的への振替えも足元で多くなっているとのことだ。その金融機関も政策保有株式縮減のため、保有目的の変更を考えているのだろう。

乙:純投資目的にされるといつ売却されるかわからない、ということだろう?

甲:法令上、明確な基準は定められていないが、金融庁は純投資目的とは「専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする」(※3)との考え方を示している。専ら株価の変動や配当で利益を得るというのだから、売り時に売って、買い時に買うのが基本だろう。

乙:そうか。純投資目的にされると、わが社の株式はさっさと売却されてしまうのだろうな。

甲:そう悲観したものでもないだろう。あくまでも推測だが、その金融機関は縮減する政策保有株式の保有銘柄を、売却すべきものと、純投資目的で保有を継続すべきものに分類したとも考えられる。乙の勤務先の成長性や収益性を評価して、即時の売却ではなく、純投資目的での保有継続を決めたのかもしれないぞ。

乙:そうだとありがたいのだが…。それでもいつ売却されるかわからないのは不安だ。先方の事情もあるだろうから目的の変更はやむを得ないとしても、何とか売却されずに済む方法はないだろうか?

甲:コーポレートガバナンス・コード補充原則1-4①は「上場会社は、自社の株式を政策保有株式として保有している会社(政策保有株主)からその株式の売却等の意向が示された場合には、取引の縮減を示唆することなどにより、売却等を妨げるべきではない」と定めている。乙の勤務先もフルコンプライしているのだろう?

乙:甲はいつも痛いところを突いてくる(笑)。
ただ、仮に、わが社の成長性や収益性を評価して、売却ではなく、純投資目的での保有継続を決めたという甲の推測が正しいとすれば、純投資目的でわが社の株式を長期保有してくれることを期待する余地はありそうだ。丁寧に収益計画や資本政策を示した上で、収益力・資本効率等の目標も提示して…って、あれ、これって機関投資家との「建設的な対話」と一緒じゃないか?!

甲:金融機関が、その専門的な知見を活かして、本気で純投資目的の株式運用に取り組むとすれば、それはスチュワードシップ・コードに準拠した機関投資家のあるべき行動に接近するのではないだろうか。投資先企業の持続的な成長を通じた中長期的な投資リターンの確保を図るような投資判断や議決権行使などが進めば、適度な緊張感を伴った健全な株主と発行会社の関係を構築することも可能だと思う。もちろん、表面的な看板の付け替えだけに終わっては意味がないけどね。

乙:なるほど、それは一理ありそうだ。発行会社としても、実効的なコーポレートガバナンス実現の観点から真摯に受け止めるべきなのかもしれないな。

(参考レポート)
矢田歌菜絵・藤野大輝・横山淳「金融機関における政策保有株式の縮減」(2024年3月27日)
藤野大輝・矢田歌菜絵・中村昌宏・横山淳「縮減が進む政策保有株式とその効果」(2024年2月2日)

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 横山 淳