後払い決済(Buy Now Pay Later)が覆い隠す米個人消費の下振れリスク

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2024年03月27日

米国では高インフレが続く中でも個人消費が堅調に推移してきた。好調な雇用環境による所得の増加に加え、株高等による資産効果が個人消費を下支えしてきたといえる。もっとも、FRBによれば、コロナ禍において蓄積した過剰貯蓄は低中所得者を中心に払底し、クレジットカードのリボ払い残高もコロナ禍前の水準を大きく上回ってきた。また、クレジットカードの延滞率も足元で上昇している。こうした中、家計が利用を拡大しているのが、後払い決済(英語ではBuy Now Pay Later、略してBNPL)だ。BNPLは、一般的には4回以下の分割払いで消費者には金利等の手数料がかからないローンと位置づけられる。言い換えれば、BNPLを利用すれば、FRBによる利上げの影響を受けにくくなると考えられる。

NY連銀のサーベイ(※1)によると、2023年6月時点で約6割の人々がBNPLのサービスを提案されたことがあり、2割弱が利用した経験がある。他方で、BNPLの利用経験は人々の属性で大きく異なる。BNPLの利用経験が多いのは、信用スコアが低く、クレジットカードの申請が却下されたり、返済の延滞がすでにあったりするような財務状況が脆弱な人々だ。BNPLでは、伝統的な信用スコアなどに基づかずに、財務状況が脆弱な人々に対して金融サービスが提供されており、金融包摂を推し進めるという意味でポジティブな側面を持つ。他方で、支払い目途が立たない人々が際限なく借入を進めてしまう恐れもある。そして、BNPLの支払いが滞ってしまった人には、多額の返済遅延手数料がかかることになる。返済ができなかったBNPL利用者は、Buy Now Pay Never(購入して支払わない、BNPN)と揶揄されることもある。

また、BNPLは政府当局にも新たな課題を突き付けている。そもそも、米国においてBNPLに関する規制は未整備となっており、個人情報保護や消費者保護上の懸念を有する。また、景気とインフレのバランスに頭を悩ませるFRBにとっても、新たな頭痛の種といえる。金融引き締めによって本来であれば個人消費の減少が見込まれるにもかかわらず、BNPLによって減少が先送りされており、タイムリーな政策判断に影響を及ぼし得るだろう。とりわけ、FRBは今後の利下げの判断に向けてデータ次第とのスタンスを示しているが、BNPLに関連したデータ自体が入手しづらいことも課題といえる。

BNPLの利用者は、全体から見れば前述の通り2割弱と限定的であるものの、NY連銀によれば2023年の年末商戦で利用が活発化したとの指摘もある。BNPLも将来所得の前借りに変わりはなく、雇用環境が堅調な間は問題が顕在化しにくいとも考えられるが、いざ雇用環境が悪化した場合には、延滞率等が急上昇し、個人消費が急激に悪化する恐れがある点には注意が必要だろう。

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐