金融経済教育で何を教育すべきか

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2024年03月13日

4月には、官民一体で金融経済教育を提供する金融経済教育推進機構が設立予定であるなど、金融経済教育の提供に向けた取組が着実に進んでいる。そのような中、国民の安定的な資産形成の支援に関する基本方針が金融審議会で検討され、まもなく閣議決定を経て公表される見込みである。

基本方針では、資産形成に関する支援制度や教育の方向性などについて定めた上で、目指すべき目標を設定している。教育の提供に関する目標としては、2028年度末を目途に、「金融経済教育を受けたと認識している人の割合」を20%に引き上げることを掲げている。

この割合は2022年に金融広報中央委員会が実施した金融リテラシー調査では7.1%であったため、今後5年間で約1,200万人増やす必要があり、単純計算で1年当たり約240万人となる。すでに金融広報中央委員会、日本証券業協会、全国銀行協会などが金融経済教育を行っており、これらの組織は関連事業を金融経済教育推進機構に移管する予定である。これらの組織が行ったセミナー等の受講者数は、2022年度は約30万人だったことを踏まえると、先ほどの目標は相当高いハードルといえる。

ただ、教育はそれ自体が目的というより、人々に対して望ましい行動をとるように促すことが目的だろう。金融経済教育に関していえば、望ましい行動の一つとして、将来に備えて資産形成が進んでいない層に対して資産形成を促すことが挙げられる。より包括的な言い方をすれば、人々の「ファイナンシャル・ウェルビーイング」(将来を含めてお金の面で不安がない状態)を実現することが金融経済教育の目的といえるのではないだろうか。

では、ファイナンシャル・ウェルビーイングの実現に向けて、何を教育すべきだろうか。個人がお金と関わる場面には、投資や貯蓄などで資産形成を行うほかに、住宅ローンなどでお金を借りたり、退職後に年金を受給したりするなど様々な場面がある。これらに関する知識はいずれも重要だが、特に社会人は金融経済教育に充てられる時間は実際上限られることを考慮すると、テーマを絞って効果的に教育を提供することが重要である。

そのため、金融経済教育においては、実際にファイナンシャル・ウェルビーイングの実現を妨げている問題を中心に教育することが重要だろう。例えば、最近若年層の間で投資が注目されている一方で、動画サイトで著名人を騙って投資を勧誘した上でお金をだまし取る詐欺が横行しているなど、投資に関連したトラブルも発生しているため、若年層に対しては投資トラブルに巻き込まれないようにする知識を教えることも必要だろう。このように、今後どのような内容について教育していくべきかを検討するには、まずは、各年代においてどのような問題がファイナンシャル・ウェルビーイングの実現を阻害しているかを丁寧に調査することが重要である。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希