「実感なき」活況に垣間見る日本企業の経営課題
2024年03月04日
日経平均株価が1989年末に記録した38,915円の史上最多値を34年ぶりに更新し、証券市場は足もと活況を呈している。確かに日本企業の業績は向上しており、今回はバブルではなく実を伴った株価上昇との見方もある。しかし、世間一般では、自分にはあまり関係のない「実感なき」株高として受け止めている人も多いのではないか。例えば、この30数年間で、時間当たり実質賃金は15%程度(※1)増加しているが、年平均成長率や直近の水準を他国と比較するとやや見劣りするように見受けられる(※2)。また、日本企業が成長を見込める海外で売上を稼ぐ比率(※3)を高めていることや、株高を牽引しているのが外国人投資家で直接的な還元を受けにくいことも、「実感なき」一因になっていると思われる。
「実感なき」でもう1つ連想される出来事として、大谷翔平選手をはじめとする日本人プロ野球選手による、米国メジャー球団との破格の金額での契約が挙げられる。各種報道によれば、代表的な契約金額だけでも以下の通りで、昨年暮れから今年始めにかけて日本人選手獲得をめぐるストーブリーグは活況に沸いた。あまりの金額の大きさに、実力・実績・人気に見合った評価なのか判断がつきかねると感じた人も少なくないのではないか。
- 大谷翔平選手:10年総額7億ドル(約1,015億円/年平均額で約102億円)
- 山本由伸選手:12年総額3億2,500万ドル(約455億円/年平均額で約38億円)
- 今永昇太選手:4年総額5,300万ドル(約76億8,500万円/年平均額で約19億円)
もっとも、肌感覚的には日本のプロ野球界の年俸(外国人選手を除く)も、他の業界や職業に比べて、この30年余りでかなり引き上げられたように感じる。実際、1990年の平均年俸1,527万円(※4)は、消費者物価指数(※5)に基づいて2023年末の価値に換算すると約1,860万円となるが、2023年の平均年俸は4,468万円(※6)と3倍近くまで上昇している。筆者のような一般サラリーマンから見れば、このレベルの上昇率でも相当羨ましい限りだが、それをはるかに凌駕し、日本プロ野球界との格差をまさに桁違いで拡げているのが米国メジャー球団の年俸水準といえる。
日米のプロ野球界でこうした年俸格差が拡大した主な要因には、次の3点が考えられる。
①ビジネスモデルの多角化
日本の球団は、依然としてチケット・飲食・グッズの販売など集客力に左右される球場内での売上に依存する傾向にある。他方、米国のメジャー球団は、米国内のみならず中南米・日本・韓国といった海外にも販売できる放映権料など球場外での売上も柱として確立している。それら料金の高騰が顕著となっており、収益源の多様化及び大型化が進んでいる模様だ。
②為替相場の変動
日本円の実質実効為替レート(2020年=100)(※7)は、1989年末の133.87に対して2023年末は73.41と約45%も減価している。これにより、上記日本人3選手の年平均額は、1989年末の価値に換算すると、大谷選手が約55億円、山本選手が約21億円、今永選手は約10億円まで減額される。円安進行が金額をより大きく見せている一面もある。
※ただし、それでも日本プロ野球界における1990年の最高年俸1億6,500万円は遠く及ばず、2022年に記録した過去最高年俸の9億円も届かない水準ではある。
③積極的かつ柔軟な人材投資
米国メジャー球団は、主に①を通じた豊富な資金力を背景に、上記日本人3選手を大型契約で獲得したような大胆な投資を断行している様子がうかがえる。カネをかけるべき選手には惜しみなく資金投入する一方で逆もまた然りという具合に、メリハリの利いた戦略が近年の選手獲得動向や契約金額からは見て取れる。
以上に挙げた、ビジネスモデルの再構築、(特に輸入企業における)日本円の購買力低下への対応、機動的な人材投資は、いずれも多くの日本企業が現在直面している経営課題にも共通する論点と思料する。「実感ある」株高や還元を享受するためにも、そうした課題への施策を絶えず打ち出していく姿勢が日本企業には今後ますます求められてこよう。
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 田代 大助
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