AIとハグする未来?

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2024年02月21日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 増田 幹郎

この冬の冷え込んだ週末、久しぶりに人気のテーマパークを訪れた。コースター系アトラクションを周回したい子ども達とは別れ、妻と二人でこれまで訪れたことがなかったグリーティング系のアトラクションに行ってみることにした。待つこと表示どおりのほぼ30分で順番が回り、招き入れてくれたキャラクターと記念撮影を行いお別れの握手をした時だった。手を握ったキャラクターはなかなか離そうとせず、そのまま両手で擦り合わせ始めた。最初何事かと思ったが、寒い中待っていてかなり冷たくなっていたことに気がついたキャラクターが私の手を温めてくれているとわかった。とても感激して年甲斐もないうえに柄でもなく思わずそのキャラクターにハグをしてしまい、妻と周りのスタッフに笑われた。これまでもそれなりの回数訪れたことがあるテーマパークだが、今回のように感動したのは初めてで大いに称賛されているそのホスピタリティに感嘆しつつ、時節柄これら機転の利くおもてなしは(このような言い方をするとファンの方々には非難されそうであるが)正しく「人の仕事」だと思った。

人の仕事がAI等のテクノロジーによって代替され、この先20年で約半数の仕事が無くなるとオックスフォード大学の研究者等によって発表されたのは今から10年ほど前。その中で無くならない仕事としては、相手の感情や気持ち、その背後に潜むものまでを慮って指導や応対をするなど、高いコミュニケーション能力が求められる指導職や営業職が挙げられていた。テーマパークで様々な来場者に臨機応変に応対し、かつ一人ひとりに感動を与えることが出来るキャストの方々の仕事も、人の仕事として今後も残り続けるだろうし今後もそうあって欲しいと思っている。

ところが、最近の生成AIの進化は、高い対人コミュニケーション能力が必要とされる職業においても代替される世の中に変わりつつあるようだ。ChatGPTを活用したAIによる家庭教師サービス等が登場しており、その特性を生かして生徒一人ひとりの質問内容に合わせた対応をしてくれるようになっている。教育指導は相手の理解度や成長に応じて個別に行うことがもちろん良いはずで、それを使った生徒側の評判も上々とのことである。利用者が挙げたというコメントのうち印象に残ったものは、「AIは同じことを何度聞いても怒らない」というものだった。確かに人では何度も同じ質問をされると嫌になるだろうし、初めてでもその時の気分次第で返答が左右される可能性もある。質問する側にしてみれば自分が納得いくまで何度でも付き合ってくれるAIは大変有難いだろう。いずれAIネイティブ世代が中心になってくると「職場の上司もAIでいい」ということになるかもしれない。

今後、ほとんどの仕事において少なくとも業務の一部はAIに代替される可能性は十分にあり、AIと人が共存する時代が来ると考えられるだろう。これを受けて、企業では特に生成AIでどんなビジネスが出来るか、どの業務を代替すべきか等の検討が多くなされている。とりあえず思い付きのようなものしか出せない立場からすれば、「我が社ではこれは人が提供するもの」として、むしろそれを「売り」にすることを考えたほうが早い可能性もありそうだ。

思いがけない感動を与えることが出来るのと、感動をその相手と分かち合えるのはやはり人であって欲しいと思うが、そのうちAIから感動的な応対を受けられるようになるのだろうか。でも感激のあまりハグするまでにはまだ少し遠い気がしている。

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主任コンサルタント 増田 幹郎