四半期報告書制度の廃止に思う
2024年01月31日
2023年11月に可決された金融商品取引法の一部改正により、2024年4月から第1四半期と第3四半期の四半期報告書が廃止され、決算短信に一本化されることとなった。四半期報告書制度が開始された2008年の段階では、企業を取り巻く環境変化のスピードに鑑み、投資家へのタイムリーディスクロージャーの観点から、速やかに業績等を開示すべきとの趣旨で制度が導入されたものと記憶している。当時に思いを馳せると、約15年の時を経て今回終了となる四半期報告書制度の改正は、まさに隔世の感を禁じ得ないところである。
四半期報告書と決算短信との開示内容の重複については、これまでも何度となく有識者による議論がなされてきたが、投資家への有用な情報提供の観点や、情報の信頼性確保の観点等から、四半期報告書そのものの廃止までには至っていなかった。しかし今回の改正では、決算短信での開示内容を拡充することで情報提供の面は担保されている。タイミングとして四半期報告書よりも先に決算短信が公表されることを踏まえると、より有用な情報開示となる改正とも考えられるであろう。
一方で、今回の改正における当初の目的であった「企業の短期主義を是正する」という点に関しては、なかなかにして高いハードル(目標)であるように思う。企業を取り巻く環境変化のスピードは、2008年と比べてもさらに加速しており、企業経営のかじ取りは難しさを増しているといえよう。投資家は上場企業の業績変化には敏感にならざるを得ない側面があり、企業も投資家の短期志向を意識せざるを得ない。この意味で、今回の四半期報告書の廃止により、すぐに投資家の短期志向、さらには「企業の短期主義」が是正されるかというと、なかなか難しいのではないか。
ただ、世界一の時価総額を誇る米国の株式市場においては、比較的、株式の長期保有が定着しているように感じる。これは「株は持ち続けていれば上がり続けるはず」という米国株の過去実績に基づく投資家の認識が、深く浸透している点が大きいのではないだろうか。このことから考えると、日本において「企業の短期主義を是正する」ためには、今後の日本経済が成長し続けると思えるかどうか、そしてそれを投資家に深く浸透させることができるかどうかにかかっているのではないだろうか。日本企業の中長期戦略、そして日本経済の持続的な成長シナリオこそが問われている。
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コーポレート・アドバイザリー部
主席コンサルタント 吉田 信之
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