2024年欧州議会選挙の注目点

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2024年01月26日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

2024年は世界の多くの国で選挙が実施される選挙イヤーとなるが、欧州では6月6日~9日に実施予定の欧州議会選挙が最大の関心事となろう。欧州政界では選挙を見据えた動きが徐々に活発化している。

欧州議会はEU理事会と共同で立法を担う機関であり、議員は5年ごとに行われる加盟国での直接選挙によって選出されることから、EU市民の代表と評される。各加盟国には住民数に比例した議席が割り当てられており、2024年の選挙では全705議席が改選対象となる。

今回の欧州議会選挙における注目点は、近年の欧州各国で勢力を強める右派政党、とりわけ強硬な移民規制や自国優先主義を掲げる極右がどれだけ議席を増やすかだ。2023年11月に実施されたオランダの総選挙で、反移民やEUからの離脱を訴える極右政党、PVV(自由党)が最多票を獲得したことなどは記憶に新しい。

議会選挙までにはまだ5ヵ月強の時間が残されているが、足元の世論調査などによれば、極右と目されるID(アイデンティティと民主主義)の躍進が見込まれている(※1)。他方、現在の第一党である中道右派のEPP(欧州人民党)グループ、および第二党の中道左派のS&D(社会民主進歩同盟)グループは、その座を維持するとみられるものの、いずれも議席数の減少が見込まれる。両グループは長く議会の二大勢力を占めてきたが、前回、2019年の選挙で初めて両グループを合わせた議席が過半数を下回った。それでも、第三党に中道リベラルのRenew(リニュー・ヨーロッパ)グループが付けたこともあり、中道派の親EU政党グループによる過半数は維持された。だが、今回の選挙ではIDがRenewを抜き第三党となる可能性も指摘されており、仮にそうなった場合、欧州議会におけるパワーバランスは大きく変化することになる。

欧州議会において極右政党の存在感が増すことになれば、少なからず欧州全体の政策の方向性に影響を与えることになろう。目下、政策面で最大の争点は移民規制を巡る問題とみられるが、自国優先主義が高まることにより、保護貿易に対する志向が強まるおそれがある。また、IDに所属する極右政党は、国内産業保護のために環境規制を緩めるべきとの主張をしており、欧州にとって最大の成長戦略であるグリーン化の進展を阻害しかねない。選挙後も議会の中心は伝統的な中道グループになるとみられることから、急激な政策の巻き戻しは想定しづらいものの、意思決定にこれまで以上に時間が掛かる公算が大きい。

2024年に予定されている政治イベントでは、影響の大きさという意味でも、米国大統領選挙が世界最大の注目点であることに疑いはない。だが、欧州議会選挙はEUにとって大きな転換点となる可能性があり、その動向を十分注視していく必要がある。

(※1)欧州議会では、政党が国別ではなく思想信条によってEUレベルで院内会派(政党グループ)を組織して活動する。会派として認定されるためには、7ヵ国以上の国から25人以上の議員が参加することが要件となっており、本稿執筆時点では、7つの会派(無所属を除く)が存在する。

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橋本 政彦
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ロンドンリサーチセンター

シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦