「バブル超え」の意味を考える

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2024年01月22日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

年初からの株高により日経平均株価は一時36,000円台に乗り、史上最高値である38,915円87銭(1989年12月29日)が十分視野に入ってきた。この89年末の株価水準はバブル絶頂を象徴する数字として市場関係者の脳裏に刻み込まれている。筆者もその一人だ。これを乗り越えた暁には、ようやくバブルの敗戦処理にピリオドが打たれた、というイメージが広がるのかもしれない。

もっとも、この30年あまりの間に様々な構造変化も起きる中、株価水準だけで、本当にバブル崩壊後の「失われた30年」を取り戻したと捉えても良いものだろうか。

例えば、当時のバブル的な上昇は株価だけでなく地価においても起こったことであるが、市街地価格指数(日本不動産研究所)を見ると、全国全用途平均ではピーク対比でいまだ4割以下の水準にとどまっている。バブル期のピークは遥か遠くというイメージである。

一方で、バブル期のピークを大きく超えているような指標もある。例えば、株式市場の時価総額がその一つであり、2015年にはすでに1989年のピークを超えた。今年1月17日現在の東証プライム市場の時価総額は877兆円で、89年末の東証1部の611兆円に対して4割以上拡大した水準にある。時価総額と日経平均株価の動きが乖離した背景には、上場企業数の増加などもあるが、市場の構成変化という側面も加わっているのではないか。バブルの際に大きな構成比を占めていた金融などのウエイトが低下し、バブル後に上場した企業群を含めて他の業種のウエイトが高まった影響も考えられよう。構造変化も踏まえれば、89年末と比較することの意味は大きくないともいえる。

バブルを乗り越えたかどうか見極めるポイントとして、人々の将来期待の変化にも注目したい。バブルの絶頂期では、人々の期待感は相当膨らんでいたように思う。経済は拡大し、所得は増加を続ける。日本経済は高い競争力を保ち、将来バラ色のシナリオで溢れ返っていた。その後の30年間は自信を喪失し、デフレマインドが定着するなど、目線が全く上がらなかった。今後、目線がバブル絶頂期並みに高まると考えるのは非現実的だが、株価の新値更新という象徴的なことが起きたとき、それが将来期待の回復に寄与するのであれば、大きな意味を持つはずだ。今年は日銀のゼロ金利政策解除も予想されるところで、刷り込まれた人々のデフレマインドの払拭に向けて重要な年になる。

そもそも96年から生産年齢人口の減少が始まり、それだけでも期待が損なわれた状態にある。人口減少を補うためには、資本を充実する、あるいは「おカネ」に働いてもらうなど、広義の「投資」を積極化することが重要である。年初からの株高に関して「新しいNISA」開始の影響を指摘する向きも多いが、これが今後の投資活動積極化の端緒になるのであれば、バブル超えの一つの兆しと捉えることはできるだろう。

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保志 泰
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