2024年の日銀は「副作用緩和」と「インフレ抑制」が課題に

RSS

2023年12月22日

2023年を振り返ると、日本銀行(日銀)がイールドカーブ・コントロール(YCC)の運用を積極的に柔軟化したことが特筆される。2024年も金融政策の動向が大いに注目される。民間エコノミストの見通しを集約している日本経済研究センター「ESPフォーキャスト」(2023年11月調査)によると、次の金融政策の修正時期としては2024年4月が、修正内容としてはYCC撤廃とマイナス金利解除が有力視されている。2007年2月以来の金融引き締めが予想されている。

YCC撤廃とマイナス金利解除はいずれも「異例の緩和策」を「通常の緩和策」に戻す措置といえるが、その意味合いは両者で大きく異なる。

YCC撤廃の主な目的は副作用の緩和にある。日銀「債券市場サーベイ・特別調査」<2023年11月調査>によると、債券市場の機能度判断DIは「量的・質的金融緩和の導入後」(13年4月~16年1月)に大幅に低下した。その後も、特に「マイナス金利導入後」(16年1月~16年9月)や「イールドカーブ・コントロール導入後」(16年9月~21年12月)といった局面でも機能低下が顕著となった。これにより社債の発行が行いにくくなるなどの問題が生じた。YCCの運用柔軟化によって機能度判断DIは足元で小幅に改善したが、依然として水準は低い。YCC撤廃で日銀による長期金利への影響が弱まれば、市場機能は一段と改善するだろう。

もっとも、日銀が国債の購入量を減らせば、債券市場の機能度が高まる半面、長期金利の上昇圧力も強まる。ファンダメンタルズに基づいて長期金利が緩やかに上昇するのは好ましいことだが、投機的な動きによる長期金利の急上昇は実体経済や金融市場に悪影響を及ぼす。このため、YCCを撤廃しても国債購入を急激に減らすことは考えにくく、指値オペなどを通じて長期金利の急騰を抑制するとみている。日銀としては長期金利を許容できる水準に抑えることを優先した上で、債券市場の機能度の改善を図ることになるだろう。

マイナス金利解除も債券市場の機能度を一定程度改善させるだろうが、その主たる目的はインフレ抑制にある。長期金利と比較すると短期金利は、中央銀行が操作しやすいだけでなく、景気や物価に与える影響も大きいからだ。日本の期間別貸出の大部分は1年以下の短い年限に集中しており、短期金利の方が貸出の増減により大きな影響を持つ。

金融引き締めで思い出されるのは、欧米の苦い経験だ。インフレ下で金融緩和を続けた結果、インフレ率の上昇に歯止めが掛からず、急速な金融引き締めを余儀なくされた。だが現時点で、日本でこうしたリスクが顕在化する可能性は低いとみている。金融緩和の度合いを示す実質金利ギャップを見ると(水準が低いほど緩和的)、日本の金融緩和の度合いは欧米ほど大きくはない。当面は緩和的な金融環境を維持しつつ、インフレが過熱しないよう段階的に利上げを進めていくだろう。

異例の金融緩和からの転換が予想される2024年も引き続き金融政策から目が離せない。

日米欧の実質金利ギャップ

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

久後 翔太郎
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 久後 翔太郎