少子化対策だけでなく、寿命の健全な延伸を
2023年12月18日
国連のWorld Population Prospects 2022によると、日本の中位数年齢(年齢順に並んだときに、人口を二等分する境界の年齢)は、2021年時点で48.4歳である。データが得られる236の国・地域の中で第3位だ。もちろん先進国の中では断トツで、ドイツ44.9歳、フランス41.6歳、英国39.6歳、米国37.7歳などと比べてかなり高い。
中位数年齢でみた日本の人口は、ここ50年間で20歳近く老けた。2020年の国勢調査によると、都道府県別の中位数年齢(年齢中位数ともいう)は、上位に秋田県(56.7歳)、高知県(53.8歳)、青森県(53.6歳)が並び、下位は沖縄県(44.2歳)、東京都(45.8歳)、愛知県(46.9歳)となっている。そして、すべての都道府県で中位数年齢が平均年齢を上回っている。
中位数年齢が平均年齢を上回っているということは、人口が年齢の高い方へ偏っており、人口構成が逆ピラミッド型になっているということだ。高齢化とは高齢者の数や割合が高まるというだけの話ではなく、いわゆる現役世代が総体として高齢になるという問題でもある。一般に、歳を重ねれば経験値は高まるが、柔軟性や成長性は鈍ってくる。
ただし、人口構造がピラミッド型であるとは、人口爆発的に子供が増え続けるか、同世代が毎年順次亡くなっていくかいずれかの状況を意味し、決して幸福な社会ではない。逆ピラミッド型であることが示すのは、生まれた人々の大多数が天寿をまっとうできるようになったということだ。つまり、この問題への処方箋は少子化対策ではない。
もちろん希望通りの出産・育児ができるようにする必要はある。ただ、追加で毎年5兆円の少子化対策を講じたときの長期的な出生数への効果は、90~180万人(子供を1人増やすのに毎年280~560万円の国民負担を要する)との試算も示されている(2023年4月26日 経済財政諮問会議)。12月11日に公表された政府の「『こども未来戦略』案」は予算を3.6兆円程度充実させるというが、人数への効果に過大な期待を持つべきでない。
政府は2040年までに健康寿命を男女ともに2016年に比べて3年以上延伸し、男性75.14年以上 女性77.79年以上とすることを目標に掲げているが、医学と医療・介護の提供体制が寿命自体をますます延ばしている。兎にも角にも長生きとなる中で、日常生活が制限されるなどの不健康な時期が長くなったり思うように短くならなかったりすることは避けたい。
労働力が全体として高齢化するなら、DXの推進など資本のさらなる活用と年齢を問わないリスキリングの強化が解決策である。また、生涯現役社会を作るために、今を生きる人々の健康増進を、データを駆使して加速させることに力を入れるべきだ。マイナ保険証をめぐる混乱と喧噪などは、早く乗り越えなければならないだろう。
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調査本部
常務執行役員 リサーチ担当 鈴木 準
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