AIのおかげで給料はどうなる?

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2023年10月16日

  • 理事 望月 衛

今年に入ってから、職場でもインターネット上でも、ChatGPTがどれだけすごいかが話題になっている。シンギュラリティは前倒しになり、2、3年先になったと言う人もいる。シンギュラリティ、つまり人工知能(以下AI)が人間を超える日と言うとき、その超えられる人間というのはどういう人間なのかは、筆者にははっきりとはわからない。上司に何か尋ねられるたび「ググって」お茶を濁していた筆者だと、とうの昔にAIに超えられていたのだろう。一方、ファインマン(You are a Feynman, or you are nobodyなる決まり文句も業界によってはあるようだから。なんならアインシュタインでも成田助教授でもかまわない)を超えないとシンギュラリティとは言えないなら、AIはまだそこまで進歩していないのではないか。いずれにせよ、(一部の)人間がマシンに取って代わられる日がすでに、あるいはすぐそこまでやってきている。

技術革新で人間が機械(AIを機械と言っていいのかはまた別の話として)に超えられる事件は歴史上何度も起きている。19世紀の技術革新は非熟練労働者の生産性を引き上げ、その一方で熟練労働者の生産性を引き下げた。職人にしかできなかったことが、機械化によって手に職のない労働者にもできるようになったためだ。一方、20世紀の技術革新、たとえばコンピュータやインターネットは熟練労働者の生産性を上昇させ、非熟練労働者の価値(人間としての価値ではなく市場価格、つまり相対賃金)を低下させている。ただ、どちらのケースも、人間の生活水準を引き上げている点が同じなのは安心材料と言ってよい。

21世紀に入り、AIが発達するにつれて、今回の大きな技術革新はどんな変化、とくに人間の仕事にどんな変化をもたらすのかも以前からたびたび話題になっている。「x年後にはなくなっている仕事y種」という趣旨のレポートはあちこちで見かける。また、2016年にホワイトハウスが発表した報告書(※1)は、報告時点では20世紀の技術革新の延長線上で来ているが、将来もそうだとは限らないとしている。

ChatGPTや近年のAIがこれほどまでに衝撃だったのは、熟練労働者の市場価格を引き下げる、19世紀以来の大きな技術革新だからではないだろうか。ブレインなり、それなりに知見を持った下調べ担当なりとしての「部下」はそれほど必要でなくなり(なにせAIが「パワポ」の絵本まで作ってくれるわけであるし)、それに伴って彼らを管理指導する中間管理職の需要も減る。必要なのは、幹部候補の新入社員、2次元以下の存在より自分と同種族を好む(古風な?)顧客向けの接客担当、それに、機械でやるより生身の人間を使ったほうが安くつく分野の働き手に絞られるのではないだろうか。そう考えると、19世紀に起きたように、非熟練労働者の賃金が熟練労働者のそれに対して相対的に上昇する可能性がある。少子化はもはや長期的に既定路線であるようだし、需要と供給を併せて考えれば、新入社員の給料が管理職の給料より高くなる時代がそのうちやってくるかもしれないと、筆者の予測をここに述べておく。

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