コーデックス愛好家の憂慮

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2023年09月29日

  • コーポレート・アドバイザリー部 主任コンサルタント 内山 和紀

パキポディウム・グラキリスにオペルクリカリア・パキプス、ユーフォルビア・ギラウミニアナ・・・。
なんのことだと思われた方もいるだろうが、塊根植物(コーデックス)と呼ばれる植物の名称である。

呪文のような名前を覚えるだけでも一苦労だが、その珍妙な姿形に惹かれる人も多い。
コロナ禍の在宅勤務を背景とした観葉植物ブームの中、30代後半から40代男性を中心に愛好家が増えているという。

冒頭のグラキリスやパキプスは、アフリカのマダガスカル島を原産地とする品種だ。
原地で育った株は「現地球」と呼ばれ、日本で種子から育てた株とは異なり、過酷な環境に耐えられるように幹の部分が肥大化する。
現地球のぽってりしたフォルムは人気が高いが、その個体数は年々減少しているそうだ。

日本の国土面積の約1.6倍相当のマダガスカル島では、無計画な焼畑農業や、黒檀に代表される希少木材の乱獲、生活用の薪や木炭の生産を背景に、この60年で森林の44%が減少し、2017年には1年間で千葉県に相当する森林が消失したといわれている。(※1)

森林減少がもたらす気候変動への影響は大きい。
今夏を振り返ると、地球の温度上昇を嫌というほど意識させられた。

国連のグテーレス事務総長が地球は沸騰する時代が到来したと警告した今年、東京は64日連続の真夏日を記録した。
世界各地で大型に発達した台風が猛威を振るい、乾燥が一因となった山火事は凄惨な被害をもたらした。
気候変動の問題は既に地球を脅かす事象をおこしているのだと強く感じる。

そんな今年の6月末、IFRS財団傘下のISSB(国際サステナビリティ基準審議会)はサステナビリティ開示基準の最終版を公表した。(※2)
開示基準はS1(サステナビリティ情報の全般的な開示基準)とS2(気候関連の基準)の2つのパートに分かれるが、とりわけS2はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言をベースとしつつもSASB(サステナビリティ会計基準審議会)スタンダードに基づく業種特性を考慮した気候変動に関連する詳細な開示が求められることとなった。
たとえば、複数の気候変動シナリオに基づく自社のリスク・機会の分析、財務情報へ与える金額インパクトも考慮した移行計画の策定、スコープ3(事業者の活動に関する他者の流出)を含めた温暖化ガス排出量などの定量指標と目標の設定など、ステークホルダーが詳しく理解できるための内容を細やかに記載することになる。

日本においては2025年3月までに国内基準を確定する予定だ。
適用時期は未定だが、準備を始める企業からの問い合わせは徐々に増えてきている。

気候変動への実質的な対応は待ったなしだ。
自社でできる改善対策を進めながら、スコープ3を含めた目指すべき将来像を描くことが求められる。

マダガスカルの現地球はまだ助かるだろうか?
コーデックス愛好家の一人として、サステナビリティ開示が好転の一助になることを強く期待している。

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コーポレート・アドバイザリー部

主任コンサルタント 内山 和紀