信頼されなくなった中央銀行

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2023年09月25日

概ね2022年から本格化した先進各国の金融引き締め局面は終盤に近づいている。いずれの国・地域の中央銀行(中銀)も、主に高インフレに対処するために政策金利を大幅に引き上げてきたわけだが、国民に痛みを強いる政策でもあることから、中銀は必ずしも人気のある存在ではないだろう。そんなプレッシャーを受けている存在の一つが英国中銀のイングランド銀行(BOE)であり、BOE等が実施した四半期調査によると(※1)、BOEが国民の信頼を一段と失っているさまが明らかになっている。

まず、BOEが2021年末から2023年8月まで累積で500bpを超える利上げを実施してきたにもかかわらず、また、実際のインフレ率が鈍化しているにもかかわらず、国民の今後一年間の予想インフレ率は、前回(5月)調査時点よりもわずかだが上昇した。それだけ国民のインフレ予想は根強いようだ。

同じ8月時点でBOEが示した景気・インフレ見通しによると、2024-25年の成長率は5月時点から下方修正、インフレ率は上方修正と、ややスタグフレーション的な見方が強まっている。世界経済の前提がほぼ変わらない中、英国経済は、今後2-3年、相対的に厳しい状況に直面すると予想されている。もっとも、低成長・高インフレの背景には、BOEがコントロールできない内外の多くの要因(例えば、ロシアのウクライナ侵攻やトラス・ショック等)があり、全ての「尻ぬぐい」をBOEに押し付けるのは酷だろう。

また、前述の四半期調査によると、4割の国民が、金利が下がることが経済にとって最善であると考えているにもかかわらず、金利見通しは依然として先高観が強く、約6割の国民が今後1年間で金利が上昇すると予想している。低下予想は1割未満にとどまり、利下げを想定する市場とはギャップがある。さすがに、政策金利が大幅に引き上げられていた2022年後半時点の7割超を下回り、2023年に入ると、大幅上昇を見込む割合も半減し、小幅上昇予想が4割以上を占める。それでも、過半数の国民が、金利はまだ上がると思っていることは、景気見通しを暗くする。住宅ローン等新規に資金を借りるコストが増える一方、金利先高観を背景に消費者の貯蓄志向は強く、貯蓄を取り崩して消費支出を支えるというシナリオが描けない可能性がある。

そして、インフレ率をコントロールするために金利を操作しているBOEの仕事ぶりを、“満足”と回答した国民の割合は19%に低下し、“不満”の割合が40%に高まった結果、ネット(満足-不満、%)では▲21%ptと1999年の調査開始以降で過去最低に落ち込んでしまった。高インフレを抑制できていないBOEの現状に対して、英国国民は厳しい眼差しを向けているといえよう。

一方、日本銀行(日銀)の仕事ぶりへの国民の見方は(※2)、インフレ率が約41年ぶりの高さになった後でも、日銀は自分たちの“生活に役立っている”という回答が4割を超え、“役立っていない”(約1割)を大きく上回り、同様に、日銀への信頼度も高い。日本国民は、過去20年近くにわたって、デフレの時もインフレの時も変わらず、日銀に対してポジティブな反応を示しており、BOEの置かれている環境とはあまりに対照的である。もっとも、この20年間は日銀が超低金利政策を実施してきた時期と重なる。今後、日銀が欧米中銀並みの金融政策にシフトしていけば、日銀への信頼度も大きく変わるかもしれない。

(※1)Bank of England/Ipsos Inflation Attitudes Survey - August 2023(2023年8月調査、9月15日公表)
(※2)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」第94回(2023年6月調査、7月12日公表)

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也