職業としてのバウンダリースパナー
2023年06月21日
男性管理職と女性社員の間で、次々と共通解を見出すフェムテックベンチャー経営者。旅を通じて「生き抜く力」をチャージしたい重篤な患者さんと地域の医療従事者との橋渡しする旅行医(トラベルドクター)。そして、タワーマンションのママ友仲間と地元商店街の経営者との食事会企画に奔走する3児のお母さん…
最近、私が出会ったキラキラ輝く人たちは、何かと何かの間を縦横無尽に駆け回っている。しかし中間管理職のように板ばさみ状態を嘆くわけでも、愚痴をこぼすわけでもない。悲壮感のかけらもない。軽やかでとにかく明るい。
こうした人たちを越境人材、あるいはバウンダリースパナー(境界連結者)と呼んだりする。Michael L・Tushmanが1977年に提唱して以来、概念としては昔からあるのだがVUCA時代のいま、再び脚光を浴びている。
バウンダリースパナーは、単なる翻訳者や仲介者とは一線を画す。状況を引いて眺めながら共通の答えを見出す。そして、何より理想やビジョンをとても大切にしている。でもそれを押しつけることはない。根回しに終始することもないし、「べき論」を振りかざすわけでもない。いかなる立場からも一定の距離を保ち、心の中のセンタリングを意識している。どの立場の方々の話もよく聞く。そう、バウンダリースパナーは傾聴のプロでもある。
壁を越え、壊し、動く。バウンダリースパニングの原動力は「信頼」である。この信頼は自分が信頼に値する人間であるとアピールすることで醸成されるものではない。バウンダリースパナーへの信頼は自ら働きかけるものではなく相手が勝手に決めることである。「信頼されたい欲」を捨て去り、相手の脳内に入り込み、相手軸で考え抜くことがバウンダリースパナーへの脱皮には欠かせない。
いくつもの結節点で右往左往(?)しながら内外関係者をつなぐコンサルタントという職も突きつめて考えれば、究極のバウンダリースパナーなのかもしれない(※1)。この気づきは、長年の体調不良に病名がついたような腹落ち感を私に与えてくれる。
壁を越え、壊し、動く。そしてつなぐ。万葉集にもうたわれる調和(beautiful harmony)を目指し、笑顔の連鎖反応を糧にしながら無意識のうちに大団円、グランドフィナーレを演出するバウンドリースパナー。スタンディングオベーションから、時にはアンコールがかかる。簡単なことではないがそうありたいものだ。
(※1)従前のコンサルタントの仕事はバウンダリースパニングよりも関係者間の摩擦や衝突の最小化(=ステークホルダーマネジメント)に近しいと考えられる。
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- 執筆者紹介
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コンサルティング企画部
主席コンサルタント 林 正浩
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