インフレが加速し過ぎるリスクと利上げの各経済主体への影響
2023年06月07日
4月の消費者物価指数(生鮮食品・エネルギー除く)は前年比+4.1%となった。季節調整値(ラスパイレス連鎖基準方式)の前月比は、このところ年率換算で6%程度に達しており、物価の上昇基調は強まっている。
日本銀行の植田和男総裁は2023年4月の金融政策決定会合後の記者会見で、「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続するリスクよりも、拙速な引き締めで2%を実現できなくなるリスク」の方が大きいと述べ、金融緩和を継続する考えを示した。インフレ下で金融緩和を継続すれば、実質金利(=名目金利-インフレ率)が低下することで経済全体の需給がひっ迫する。需給のひっ迫はインフレを更に加速させることで実質金利を一段と低下させる。こうしてインフレは加速度的に上昇し得る。この循環メカニズムが十分に機能すれば、適切なタイミングで金融を引き締めてインフレの過熱を回避しつつ、2%の物価安定目標を達成することは可能であろう。
しかし、「適切なタイミング」を見極めることは非常に難しい。見誤った欧州や米国は物価の急騰に見舞われている。日本においても、デフレからの完全脱却の確度が高まるほど、インフレが加速し過ぎるリスクも意識しておく必要がある。
インフレが過熱すれば、長期金利だけでなく短期金利も大幅に上昇することになるだろう。その影響は多くの経済主体に及ぶ(※1)。国債発行利回りの上昇により政府の資金調達コストは増加する。また、当座預金への利払い費の増加によって中央銀行も赤字に陥ることが濃厚だ。企業への負担も大きい。対照的に金融機関にとっては恩恵の方が大きいだろう。また、多くの預金を保有する家計も、全体として見れば純利息収入は増加するとみられるが、その恩恵は負債の少ない年金受給世帯に集中する。住宅ローンを多く抱える中間層では負担の方が大きくなるだろう。さらに、勤労世帯では利上げに伴う雇用所得環境の悪化も予想される。物価上昇に起因する金融引き締めが与える影響は個々の経済主体によって異なることには留意が必要だ。
(※1)詳細は神田慶司・久後翔太郎・中村華奈子・高須百華「日本経済見通し:2023年4月」(大和総研レポート、2023年04月20日)
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経済調査部
シニアエコノミスト 久後 翔太郎