「攻めのCSR」の陰で

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2023年05月12日

  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 神谷 孝

一時期の勢いは多少落ち着いたが、ESG投資への関心は高まり続けている。NPO法人日本サステナブル投資フォーラムによると、2022年度末のサステナブル投資残高は493兆円。前年度のほぼ横ばい(※1)ながら、この5年間で5倍に膨らんだ。

そして、投資される企業の方もその対応にリソースを傾ける。SDGsへの取り組みを実行し、サステナビリティ宣言を行い、統合報告書を作成し、TCFDへの対応も。やっと一段落だろうか。担当者は、資本市場のESG評価を気にしつつ、また、新たな業務がやってこないかと身構える。

あれ!何かもやもやする。本来、これらの活動が向き合う相手は社会のはずだが、いつしか、資本市場や金融関係にばかり向いて話をしているのではないか。

CSR白書2022(東京財団政策研究所)によると、社会課題の解決に向けて株主・投資家と対話している企業の割合は、2015年度の77%から21年度には90%に上昇した。他方、NPO、NGOなどソーシャルセクターと対話を行う企業の割合は下がり続け、実際に協働して取り組みを実施している割合も、2015年度の73%から41%と半数を切る水準だ。

ソーシャルセクターは、社会課題に対する専門性と豊富な経験を有するステークホルダーのはずだ。しかし、そのNPOも、認証法人数が2017年度をピークに減少を続けており、今後もこの傾向は続く可能性が高い。「SDGsへ取り組み強化」と言いながらも企業は特定のステークホルダーにしか興味を持たなくなっているのではないか。

ここで、CSRという考え方を先の白書に沿って、今一度整理したい。CSR活動は次の3つで構成されている。①社会課題解決に資する製品やサービスの提供、②事業によって社会課題を自ら作らないこと、③寄付や社員によるボランティア等の社会貢献活動である。①は攻めのCSR、②は守りのCSRと括られており、③は支えのCSRと呼ばれるらしい。

現在、脚光を浴びているのが「攻めのCSR」である。「攻め」という前向きな言葉に、「CSV(※2)」というお墨付きが加わったからだ。「社会価値」と「企業価値」の創造という、耳触りの良い概念に経営者は飛びついた。確かにこれまでは、事業によって収益を上げるとともに、積極的に社会課題を解決していくという視点は乏しかった。「CSV」という視点で社会課題への向き合い方を変えることで、改めて競争戦略としての重要な気付きを得ることにもつながった。

一方で、「攻めのCSR」から追い出されるように、とりわけ、隅っこに追いやられているのが「支えのCSR」である社会貢献活動ではないだろうか。国税庁によると、企業による寄付金は、この10年間ほぼ横ばいで推移している。1990年に設立された1%(ワンパーセント)クラブ(※3)も、今はその名前を耳にすることもほぼなくなった。

企業は、SDGsへの取り組みを活発化し、ESGへの対応も強化し、CSVを高める経営を強化している。それ自体は大きな進歩ながら、それに留まらず社会全体の活動を支える「支えのCSR」あってこその「攻めのCSR」であることを改めて意識したいと思う。

(※1)日本サステナブル投資白書2022(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム)によると、大手機関の社内的なサステナブル投資の定義見直しで回答を見合わせたことを要因の一つとしている
(※2)CSV経営と言われ、企業と社会の共通価値を同時に追求する経営
(※3)利益の1%を社会貢献に支出しようという任意団体。現在、組織は解散されたが、経団連のSDGs委員会の下部において「経団連1%(ワンパーセント)クラブ」として位置づけて運営されている

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神谷 孝
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