2023年ABAC金融タスクフォースの活動

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2023年03月29日

昨年10月のコラムでABAC金融・経済作業部会の2022年の提言をご紹介した(※1)。本コラムでは2023年のABAC金融タスクフォースがAPECの首脳・財務大臣に対して提言することを計画している優先課題について述べたい。ABAC日本委員である中曽宏大和総研理事長は、昨年のABAC金融・経済作業部会の議長に続き、今年はABAC金融タスクフォースの議長を担っている。私は日本委員のスタッフの一人として、APEC首脳との対話、APEC財務大臣会合に向けて、年初からABACの活動に取り組んでいる。

2023年のAPEC/ABACの議長国は米国が務めており、その強力なリーダーシップのもと、民間からのAPECに対する政策提言をより実りあるものにしたいという意向がある。その空気は、2月にニュージーランドのオークランドで開催されたABACの第1回会合でも感じられた。

2022年のABACでは5つの作業部会に分かれて議論が行われた。具体的には、「地域経済統合」「零細・中小企業と包摂性」「デジタル」「持続可能性」「金融・経済」の5つの作業部会である。今年は、作業部会を「経済統合」「デジタルとイノベーション」「持続的成長」の3つに絞り、金融・経済作業部会は金融タスクフォース(FTF)と名前が変わることになった。

FTFは前述の3つ作業部会それぞれと共同で議論を進めていく。問題を緊急性の高いものに絞り、より幅広い視点を導入しつつ、作業部会間での議論の重複をさけて、より意味のある提言を生み出すことが狙いである。今年は包摂タスクフォースも設置され、FTF同様に各作業部会との部門横断的な問題に取り組む。

今年のFTFの優先課題は以下の6点である。
【経済統合作業部会と共通の優先課題】
・越境デジタル貿易金融サービスの促進
・越境オープンデータ/オープンバンキングとデジタル決済の促進

【デジタルとイノベーション作業部会と共通の優先課題】
・相互運用可能なホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)の促進
・金融サービスにおける広範なデータ共有・利用のための政策・規制フレームワークの開発

【持続的成長作業部会と共通の優先課題】
・公正かつ安価なトランジションへの資金供給
・持続可能なイノベーションへの資金供給

これらの優先課題のうち、現時点で議論が最も進んでいる「越境デジタル貿易金融サービスの促進」について提言の方向性をご紹介する。この優先課題では、APEC参加国・地域において貿易金融で利用される主要な貿易関連書類の標準化に焦点を当て、関連する手続きを完全にデジタル化し、これによって運転資金へのアクセスを向上させ、貿易にかかるコスト低減を図ることを目指している。これは特に零細・中小の輸出業者にとって重要な課題である。

具体的には、各国のデジタルトレードプラットフォームの相互接続を推進することが議論されている。すでに2022年10月に日本の貿易情報連携プラットフォームである民間のTradeWaltzがタイのNDTP(National Digital Trade Platform)、シンガポールのNTP(Networked Trade Platform)と相互接続検証を行い、検証は成功している。今後はこの3カ国で運用が本格化されていくが、APECの他の国や地域のデジタルトレードプラットフォームにABACが参加を呼び掛けて、参加国・地域を増やしていく活動を行うことになるだろう。

今後のABACの活動については、ABAC日本支援協議会のHPに順次アップデートされていく予定である(※2)。是非、注目していただきたい。

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山崎 政昌
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 山崎 政昌