中学受験とリスキリングの沼

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2023年03月22日

  • コンサルティング企画部 主席コンサルタント 廣川 明子

中学受験とは、私立・国立中・公立中高一貫校の入学試験を受験することである。ドラマや漫画の題材としても扱われているのでご存じの方も多いだろう。少子化にもかかわらず今春の受験者数は過去最多の63,286名、首都圏では小学生のおよそ4.65人(※1)に一人が受験をしたと言われる。

受験に向けて小学校3年生の春休みから通塾するのが一般的だが、3年間の費用は決して安くはない。また、自立して自宅学習ができる子供は稀で、基本的には親が伴走する必要がある。このことから「中学受験は家族の戦い」とも言われ、親が子供の受験にのめりこむ状態を「中学受験の沼にはまる」とも表現する。子供の幸せを願って始めたはずの受験が、他の子供との比較や偏差値の上下に一喜一憂し、沼に足を取られ親子ともに苦しむ例は少なくはない。かくいう私も沼でもがいた親の一人だ。

さて、リスキリングを考える。今後は人的資本経営の名のもとに、教育訓練費や資格取得者数などのKPIを立て、統合報告書や有価証券報告書(※2)で開示することが求められる。会社が人材戦略を立てて総合的な施策を講じているのであればよいだろう。しかしながら、開示に向けて他社より見栄えのする数字や研修プログラムを作る議論に終始する企業は少なくない。開示ありき社員不在の状態は、偏差値至上主義に陥った親の姿に重なる。

イギリスに「馬を水辺に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできない」ということわざがある。自己啓発からリスキリングに呼び方が変わっても学ぶ人は学ぶし、そうでない人は環境を整えても学ばない。個々の社員に動機づけをして、老いも若きも学び続けることが当たり前の組織にすることが第一歩だろう。そうでなくては、投資額が多いほど、結果がでない状態に苛立ち沼にはまってしまう。

息子も志望校が定まり受験勉強が自分事となってから、学ぶ姿勢が大きく変わった。ひたむきに机に向かう姿に成長を感じ、受験を通じて家族の絆も強まったと思う。それだけで我が家の戦いは大成功だ。リスキリングをはじめとする人的資本に投資する流れは大歓迎だ。しかしながら沼にはまらぬよう、他との比較で論じるのではなく、社員と組織の幸せと将来を見据えて推進することを忘れずにいただきたい。

(※2)企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(内閣府、2023年1月31)により有価証券報告書における人的資本に関する戦略や指標の開示が義務化される

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廣川 明子
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コンサルティング企画部

主席コンサルタント 廣川 明子