研究開発の意思決定にもイノベーションを
2023年02月27日
総務省が公表している科学技術研究調査(※1)によれば、2021年度の日本の科学技術研究費(以下、「研究費」)は、前年度から5千億円余り増加して約19.7兆円となった。21年度の研究費は、新型コロナウィルス感染が広がった20年度の減少から回復し、コロナ前(19年度)の水準を上回った。しかし、研究費を使用した研究主体別や研究費の支出源別に見ると、いずれもコロナ前からの変化は限られる。物価や賃金などの変動を考慮した実質ベース(2020年度基準)では、21年度の研究費は前年度より少ない約19.1兆円にとどまるとされており、インフレが加速すれば研究開発への制約がさらに厳しさ増すことも考えられる。
日本は科学技術創造立国を目指して1995年に「科学技術基本法」を制定し、同法に基づく基本計画を定めて科学技術政策を進めてきた。人文科学を含む科学技術の振興とイノベーション創出の振興を一体的に進めるべく、同法は2020年に「科学技術・イノベーション基本法」に改正され(※2)、21年度からは第6期にあたる新たな基本計画がスタートを切った(※3)。新たな基本計画は5年間の研究開発投資について、政府で30兆円、官民合わせて120兆円を目指す方針を掲げている。しかし、新たな法や基本計画が始動しても、研究費に際立った変化は見られず、研究開発は過去からの延長線上で足踏みを続けている可能性がある。
社会課題への対応や産業への還元に向け、政府はライフサイエンスや情報通信などの分野に重点を置いて研究開発を推進してきた。しかし、研究費の総額が増加しない中で、特定の目的を持つ分野だけに強く傾斜すれば、他の分野では研究開発の縮小を余儀なくされることになる。第6期の基本計画では、⾃然科学の「知」と⼈⽂・社会科学の「知」が融合した「総合知」の創出と活用に向け、⼈⽂・社会科学には厚みのある「知」の蓄積が期待されている。しかし、21年度の自然科学以外の研究費は前年度とほぼ変わらない水準にあり、インフレの進行に伴って、人文・社会科学の研究活動は実質的に縮小している懸念もある。
政策の決定者や経営組織の責任者が見通せる未来には限界があり、トップダウンの視点だけでは細部に宿るイノベーションの芽を見落とすことにもなりかねない。専門家の探求や実務家の発見、生活者の発想などから生まれた芽に光を当て、進捗や成果に応じて研究開発の規模を拡大し速度を上げていけるような、機能的なボトムアップの仕組みがあれば、分野や組織の垣根を越えた自由で創造的なイノベーションも後押しできるように思える。成功体験への依存や現状維持の思考が、過去と非連続に起きる多様なイノベーションの芽を摘むことのないよう、研究開発の意思決定にも革新的なイノベーションを期待したい。
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