優勝国は、その後4年間も幸せでいられるか

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2022年12月26日

日本も出場してカタールで開催された4年に1度のサッカーのワールドカップは、アルゼンチンの36年ぶり3回目の優勝で幕を閉じた。過去22回の大会のうち、優勝国はウルグアイ、イタリア、ドイツ(西ドイツ)、ブラジル、イングランド、アルゼンチン、フランス、スペインの8ヵ国であり、準優勝国に対象を拡大しても13ヵ国にとどまる。この40年間(11大会分)で見ても、イタリア、アルゼンチン、ドイツ、ブラジル、フランス、スペインにオランダ、クロアチアを含めた8ヵ国という限られた顔ぶれが決勝に進出し、今大会の決勝も、アルゼンチン対フランスという組み合わせになった。

日本は、初めてワールドカップに出場した1998年のフランス大会以降、グループステージ 敗退とノックアウトステージ進出を交互に繰り返してきた。また、これまでシード国(ポット1)に勝ったことも引き分けたこともなかった(2002年大会は開催国として日本がポット1)。前回のロシア大会でグループステージを突破した日本が、今大会はドイツ・スペイン(ポット1)という優勝経験のある2ヵ国と同じグループに入ってしまったことから、期待値を低くして臨んでいた己の不明を恥じるばかりである。だが、過去の経験則が当てはまらないという意味では、“新しい景色”を垣間見させてもらったのかもしれない(特に、僅か3分間とはいえ、優勝経験国が揃って敗退するかもという想像もしなかった時間帯をTVの前で経験できた)。ちなみに、対戦相手は異なるものの、今大会の日本の戦績パターン(勝ち-負け-勝ち-PK負け)は2010年の南アフリカ大会と同じである。

さて、アルゼンチン政府は12月20日を国民の祝日とし、母国に凱旋したアルゼンチンの代表メンバーを祝うために、数百万人の国民が優勝パレードに殺到したという。2021年に4年ぶりのプラス成長に転じたアルゼンチン経済だが、2022年は、世界的なエネルギー・農産物の価格高騰の影響もあって、インフレ率は年初の前年比で約+50%から直近11月は同+92.4%と約31年ぶりの高い伸びに加速し、欧米以上に国民生活は大きな打撃を被っている。IMFによると、2023年も前年比+70%を超える物価上昇が予想され、厳しさが続く見通しだ。また、ペソ安・ドル高が進んでいる点を踏まえると、カタールのスタジアムに集まったアルゼンチンのファンは限られた富裕層か、高いコストを負担する相当な覚悟を持った人々だったといえよう。

果たして、今回の歓喜が経済状況の好転につながるだろうか。前回優勝時(1986年)には2年後にマイナス成長に陥っており、隣国ブラジルやラテンアメリカ全体と比べても、決してパフォーマンスはよいとはいえない。ただ、なかなか幸せが持続しないのはアルゼンチンに限ったことではなく、過去40年間を振り返っても、1990年のドイツ、2006年のイタリア、2010年のスペイン、2018年のフランスといずれも優勝から4年以内にマイナス成長に落ち込んだ。必ずしも自国のせいではなく、グローバルな流れに翻弄されてしまう面もあろう。

サッカーに続いて、2023年3月には、パンデミックの影響で延期された野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシックが6年ぶりに開催される。ワールドカップとは異なり、日本は2006年の第1回と2009年の第2回の優勝経験国だが、特に2009年の時はリーマン・ショックで暗澹としている中での数少ない明るい希望だった。3回目の優勝を目指す日本は、まずは東京での1次ラウンドを突破することが必須になるが、アルゼンチンのファンほどではないにしても、球場で喜べることを願いたい。

(※1)同一グループの4ヵ国で総当たり戦を行い、上位2ヵ国がノックアウトステージに進出する。

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近藤 智也
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政策調査部

政策調査部長 近藤 智也