シン・出向
2022年11月30日
11月18日に満を持してストリーミング配信が解禁された、とある空想特撮映画を観た。様々な組織から集められた出向者で構成されるプロジェクトチームが中心となり、劇中で起こる予期せぬ変化や新たな課題といった不確実性に、出向元で培った技能や人脈を活かして対応していく、といった内容である。中でも主人公のピンチを出向元の同僚がいち早く察知し、そのことをプロジェクトメンバーに知らせる場面では、出向者に対する出向元からの手厚いサポートに、同じ出向経験者として心にくるものがあった。
一昔前の出向は金融機関を題材としたドラマでも描かれたような、左遷や片道切符といった意味合いが強かったが、必要な労働力の確保さえ難しくなりつつある昨今は違う。先述の映画のように出向先から求められて即戦力として従事するケースや、出向元が社員の教育の機会として利用するケース、コロナ禍でも見られた一時的な余剰人員の雇用の維持に活用するケース等、出向元に籍を置いたまま出向先の仕事に従事する、在籍型出向としての利活用は多岐にわたる。こと航空業界において、出向を積極的に活用した国内と異なり、解雇で対応せざるを得なかった海外では需要回復期に人手不足が解消せず、リベンジ旅行に水を差したことを鑑みると、不確実性への柔軟な対応の一助を出向が担ったと言えよう。
厚生労働省も在籍型出向への支援を強化しており、2023年度予算の産業雇用安定助成金の拡充に関する概算要求額には72億円を計上した。従来の雇用維持を目的とする出向に加え、スキルアップ目的の出向についても、出向元に賃金の一部助成がされるようになる見込みだ。出向は人ありきの雇用慣行の、良い意味での日本らしい曖昧さによって成り立っている制度である。職務ありきの雇用慣行では、雇用関係の見直しをせずに、他社で別の職務をすることはまずないだろう。労働力移動がなかなか進まない日本において、多様性を持った人材を確保するためにも出向を戦略的に活用できないか、善は急げ、改めて検討してみてはいかがだろうか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
- 執筆者紹介
-
マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 浜島 雄樹
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
IoT製品に対するセキュリティ適合性評価制度『JC-STAR』の開始
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月16日
-
2025年度のPBはGDP比1~2%程度の赤字?
減税や大型補正予算編成で3%台に赤字が拡大する可能性も
2025年01月15日
-
『ICTサイバーセキュリティ政策の中期重点方針』の公表
DIR SOC Quarterly vol.10 2025 winter 掲載
2025年01月15日
-
緩やかな回復基調、地域でばらつきも~消費者の節約志向や投資意欲の変化を注視
2025年1月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年01月14日
-
金融分野におけるサイバーセキュリティに関するガイドラインとセキュリティ人材育成
2025年01月16日