冬の時代でも強みを発揮する米国の起業家文化

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2022年11月28日

ベンチャー企業を取り巻く環境は厳しさを増している。「上場企業よりもユニコーンの冬の時代がもっと続くと思っている」と、ソフトバンクグループの孫正義代表取締役会長は8月の決算説明会(※2)において述べた。さらにソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)事業(※3)の過去最大の赤字の原因を説明した際には、企業価値10億ドル以上の大手未公開企業(=ユニコーン)の企業評価についても厳しい見通しを示している。

一方、既存の大手上場企業の多くが、ユニコーンが創出したイノベーションによって、デジタル・トランスフォーメーション(DX)の名の下、事業ポートフォリオの見直し、さらにはコア事業の変革まで迫られている。実際、直近の10 年間、プライベート・エクイティ市場(PE市場=未公開株式市場)は多数のユニコーンを着実に生みだしており、PE市場の果たしてきた役割は大きい。直近、大手の上場テック企業( ITを活用してビジネスを展開している企業)の株価が大幅に下落しており、それが未公開株式市場に与えるインパクトは大きいと思われるが、そこに焦点を当てて「ユニコーンの冬の時代」を強調して悲観する前に、ユニコーン冬の時代に対するPE市場の耐性とその将来性を見通すべく、同市場がこれまで果たしてきた役割と存在意義を客観的に把握し、理解を深めることが重要であろう。

米国のPE市場には、過去のイノベーションに安住せず、将来のイノベーションを見出す目利き力を強化するベンチャー・エコシステムが根付いているため、見通しはそれほど悲観的ではない。ここでの目利き力とは、成長が確実なスタートアップやアイデアを見極める力を指す。その力を構成するのは、多数のスタートアップに関する情報を収集し、投資できるだけのネットワークを持つ力と、そうしたスタートアップの中から成功する企業を選別し、さらに育てる力である。これらを強化し、投資した企業のうち成功する企業の割合を高めることで、さらに目利き力は強化される。米国のベンチャー・エコシステムでは、ビジネスアイデアを世界規模で収集することができ、その結果投資対象のユニバースも世界規模で考えることができる。つまり米国にはスタートアップを育てる環境が整備されていることから、目利き力、つまり成功確率を高める上で明らかな優位性がある。創造性よりも資金ありきのベンチャー・エコシステムは、今回のような経済的な逆風が吹くと、その持続性がたちまち低下してしまう。これは日本のベンチャー・エコシステムを強化していく上で、非常に重要なインプリケーションを持つのではないか。

(※2)2022 年8月8日、ソフトバンクグループ株式会社2023 年3月期第1四半期決算説明会における孫正義氏の連結業績についての説明。
(※3)2023年3月期第1四半期末の時価純資産総額(NAV)18.5兆円となったファンド。同期末の投資先数は473社。累積利益は2020年度末時点では7兆945億円まで含み益が拡大したが、同期末では1,122億円まで含み益が縮小。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢