家事・育児を分担する男性がついにマイノリティではなくなった
2022年10月18日
先日、5年に一度行われる総務省「社会生活基本調査」の最新結果(2021年調査)が公表された。
図表は、この調査から末子が未就学の共働き世帯の2006年~2021年の夫婦の平日1日あたりの家事・育児時間の変化を示したものだ。「総平均時間」を見ると、2016年から2021年にかけて夫の家事は16分から26分へ、育児は28分から41分に延びたものの、2021年時点で家事155分、育児188分の妻との差は歴然だ。男性の「総平均時間」の変化が鈍いことから、報道では男性の家事・育児分担意識があまり変わっていないと評する見方が大勢であった。だが、筆者は、この統計の夫の家事・育児の「行動者率」から、大きな変革の兆候を見出している。
家事・育児の分担は「総平均時間」だけを見ても実態を正確に捉えられない。家事・育児の総平均時間は家事・育児をした人の割合(行動者率)と、家事・育児をした人の平均時間(行動者平均時間)の掛け算で算出される。図表のうち、夫の「行動者率」を見ると、家事・育児とも2006年から2016年にかけて2割前後で低迷していた。すなわち、これまで夫の8割ほどは平日に全く家事・育児をしていなかったのである(※1)。
しかし、2016年から2021年にかけて夫の「行動者率」は、家事は19.0%から30.9%に、育児は24.4%から35.4%に急上昇し、30%の大台を超えた。30%という比率は、「集団マイノリティがマイノリティでなくなるクリティカル・マスと呼ばれる分岐点」(※2)として重要な意味を持ち、30%を超えることで「変化が連鎖し、組織の文化を変えるほどの力を持つ」(※3)ことが期待されている。政府が掲げる女性管理職比率の当面の目標値もクリティカル・マスを意識して30%と設定されている。
家庭責任を担うため(長時間の)残業を望まない男性や、学校のPTAに参加する男性が3割を超えマイノリティでなくなると、会社や地域コミュニティも組織としてのあり方を見直さざるを得ない。組織が変われば、残りの7割の意識もおのずと変わっていくだろう。筆者は、まさに今から日本の男女の家事・育児分担意識が大きく変わる変革期が始まるものとみている。
(※1)行動者率は、調査日の1日をとって、その日に家事・育児を行った人の割合である。従って、男性の約8割が1年を通じて平日に1日も家事・育児をしていないという意味ではなく、ある平日1日をとると、その日に家事・育児をしていない男性が約8割という意味である。
(※2)上野千鶴子「『202030』は何のためか?」、公益財団法人日本学術協力財団『学術の動向』2017年8月号、pp.98-100より引用。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟
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