鉄道開業150年に考える鉄道と自動車の役割
2022年10月12日
2022年10月14日は、日本で鉄道が開業してちょうど150年にあたる日だ。1872年10月14日(旧暦明治5年9月12日)に新橋・横浜間で鉄道が開業したのをはじめ、全国各地で鉄道網が形成されていった。それまでの大量輸送手段は船であったが、鉄道は高速で安全に大量の物資を運ぶことが可能なため、長らく国内物流の主力を担う輸送手段と位置づけられた。港湾や各種工場などを持つ地方都市、さらに石炭・木材・砂利などが取れる山林地帯・河川敷などを結ぶことで、鉄道は全国各地に戦略的な物流網を張り巡らし、明治以降、日本全体そして地域の経済発展に大きな貢献をしてきたのである。明治末期から昭和初期にかけては、都心と郊外を結ぶ私鉄の建設が盛んとなって、通勤・通学やレジャーなどに鉄道を利用することになり、人々が鉄道を使って日常の行動範囲を広げていくというライフスタイルの大きな変化にも一役を買った。
一方、自動車による本格的な輸送が盛んになったのは、だいぶ後になってからのことだ。大正期の頃から自動車はタクシーやバスなど都市部における人々の短距離の輸送手段として普及するようになり、トラックでの物資の輸送も行われたが、あくまで短距離が中心だった。この背景には、当時の日本の道路網が自動車による輸送には適しておらず、戦後しばらく経っても貧弱であったことが挙げられる。1956年に世界銀行の有名なワトキンス・レポートがその点を指摘して、日本の道路網の整備が加速するようになったのだ。1960年代以降には主要な国道の整備・拡張や高速道路が建設されて、ようやく今のような自動車による物資の長距離輸送が確立していくこととなる。
こうした道路網の整備によりdoor-to-doorで柔軟に輸送が可能になった点を受けて、1960年代以降、鉄道は当初の物流手段としての側面が次第に弱くなり、地方を中心に廃止される路線が増えていった。さらに、地域の人口減少や、最近ではコロナ禍による人々のライフスタイルの変化もあり、開業150年にあたる今日、鉄道は厳しい時代を迎えているようにもみえる。
しかしながら、鉄道は近年の気候変動問題やドライバーの担い手不足などの課題解決を担うという役割が高まっている。さらに、都市部における人々の移動、それに伴う都市活性化の手段としても再評価されている。例えば、次世代型路面電車(LRT:Light Rail Transit)は富山市で都市活性化に貢献しており、栃木県芳賀町・宇都宮市でも2023年8月にLRTの開業が予定されている。大阪では「なにわ筋連絡線」「新大阪連絡線」の建設により、新大阪駅とキタ・ミナミの間の人々の移動が一層活発となることが期待されている。また、自動車についても、都市部では短距離走行が中心であることや環境対策も踏まえて、主に宅配便や配送の小型トラックなど物流面で電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)の果たす役割が今後は増えていくだろう。このように新しく定義されつつある鉄道と自動車が担う役割に、今後も注目していきたい。
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- 執筆者紹介
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経済調査部
主任研究員 溝端 幹雄
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