これからの日本経済に求められること

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2022年09月28日

  • 佐藤 清一郎

日本は、先進国の中でいち早く高齢化社会に入り、かつ、少子化・人口減少に直面している。低成長に苦しむ一方で、65歳以上人口が総人口に占める割合(高齢化率)は年々上昇を続け3割に迫り、年金・医療・福祉などの社会保障給付費は、対GDP比で2割を超えてきている。高齢化の更なる進行で、社会保障給付費の増加が見込まれる状況下、この構造を持続可能性なものとするには、少子化対策や医療・介護費の抑制に加え、新たな付加価値を継続的に生み出す仕組みが必要である。ここで重要なのが技術革新である。資本に体化された新技術には、人々の創造力を掻き立て、既存分野見直しや新規分野開拓を後押しする力があるからである。また、労働力人口減少で、より資本集約的な経済構造への転換が求められている点でも、技術革新の役割は大きい。

技術革新は、労働から資本への代替が生じる過程で、新しい資本に体化され、経済活動の中で具現化されていく。労働から資本への代替は、経済発展段階のステージが進むに従って生じる。初期の発展段階では、資本蓄積が不十分な一方、豊富で安価な労働力があるので、労働集約的な生産方法やサービス提供が多く採用される。たとえば、発展初期の新興国で、労働集約的な工程を多く含む繊維製品の生産が行われるのは、安価な労働力を有効活用した事例である。しかし、経済成長に伴って、資本蓄積が進み資本の割高感が薄れる一方で、賃金上昇で労働の割高感が増すと、労働から資本へ代替が生じる。日本はこれまで、労働から資本への代替が起こった事例は沢山ある。たとえば、駅の自動改札(以前は、改札で駅員の人が切符を切っていた)、自動車組み立て作業の機械化、建設現場における様々な重機械導入、警備システムの機械化、介護現場でのロボット導入、ドローン活用などを含む農作業の機械化、山間部でのドローン活用による宅配サービスなどである。これらは主として、割高な労働から資本への代替が目的であるが、それ以外でも、例えば新型コロナ感染拡大を契機とした非接触型の仕組みつくりで、労働から資本への代替が起こっている。電子商取引、オンライン会議、空港でのセルフチェックイン機器導入、スーパーマーケットのセルフレジ増加、飲食店でのロボット活用などが代表例である。こうした一連の事例では、資本に体化された新技術が、生産性向上に寄与し、新たな付加価値を生み出す原動力となっているケースも多い。今の日本は、成熟経済ではあるが、新たな成長分野発掘の機会はたくさん残されている。日常生活のあらゆる場面で、資本に体化された新技術活用の可能性を探っていけば、日本経済は、より効率的となり、コスト削減や潜在成長率引き上げが可能となるであろう。

技術革新を促し、その恩恵を享受するには、教育や研究開発への重点的かつ継続的な投資が必要である。こうした投資には、人々の創造性を高めて継続的に新技術を生み出す力やその新技術を活用する力の習得を促す効果が期待できるからである。一人一人の能力向上で、新技術を生み出し、それを活用できる環境が整えば、労働力人口減少によるマイナスの影響を軽減できる。供給面での効率化に成功すれば、人口減少などによる国内需要減にどう対処するかということになるが、これについては、財やサービスの高付加価値化による一人当たり消費額を増やす工夫や人口増加で高成長が続く国・地域での市場開拓をさらに進めていく努力が求められることになる。

日本は、高齢化・少子化・人口減少という経済活動の前提としては、やや不利な条件ではあるが、資本に体化された新技術の活用を着実に進め、国際競争に耐えうる強靭な体質を持った経済へと進化していくことを期待したい。

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