「非認知能力」を知り、企業経営に活かす
2022年09月26日
デジタルトランスフォーメーション(DX)が加速する時代において、何でも数値化しようという動きがある。経営領域では「データドリブン経営」、人事領域では「HRテクノロジーの活用」などが挙げられる。人と組織、人と人との相性まで数値化が試みられる時代だからこそ、デジタル化の限界についても知っておく必要がある。
人間の能力には、数値化できる「認知能力」と、数値化できない「非認知能力」がある。テストのスコアや資格取得情報、IQなど、個人の能力を計測しようとする場合、数値化できる「認知能力」が重要視される。一方で、「非認知能力」は、その教育プログラムや評価方法が確立していないので、その名前の通り「非認知」で数値化は困難とされる。
「非認知能力」とは、自信、意欲、自立、自制、協調、共感、忍耐、注意など、数値化が困難とされる様々な要素が対象となる。米国の経済学者ジェームズ・ヘックマン氏(2000年ノーベル経済学賞受賞)の翻訳著書「幼児教育の経済学(2015年 東洋経済新聞社)」で「非認知能力」が紹介され、日本でも注目されるようになった。「非認知能力」の育成には、幼少期の教育が重要であると結論付けられている。
大卒社員の3人に1人が入社3年以内に会社を辞める状況下で、5年後、10年後に活躍する人材を予測できたら、企業経営にとって間違いなくプラスになるだろう。面接官の「眼力」や「フィーリング」も重要ではあるが、「非認知能力」を可視化できれば有用な採用指標となるだろう。幼少期の習い事や学校でのクラブ活動や生徒会活動、ボランティア活動など、選考のヒントはある。活動実績がなくても、簡単なテストでポテンシャル評価できれば、隠れた資質・才能まで見越した採用が可能になるのではないか。
企業経営を考える上で、社員の「非認知能力」を計測することができたら、社員の能力や採用時など評価の仕組みは一変するかもしれない。「仕事をやり遂げる力」「職場のムードメーカー」「電話の神対応力」など数値化できれば面白い。業種や職種によって求められる能力は異なるが、それを明確に設定した上で、現時点で「非認知能力」と言われている能力を数値化、または数値化できなくても定性評価を活用する仕組みができれば、人材発掘・評価の革命につながるだろう。新たな能力が評価されるその時、「非認知能力」は「非認知」ではなくなり、新たな呼称が必要になるだろう。
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