平均家庭の電気・ガス代上限が年間100万円近くなる英国だが、平均家庭って何人?

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2022年09月08日

9月5日、7週間に亘り繰り広げられた英国保守党党首選の結果が発表され、リズ・トラス外相が対立候補のリシ・スナク前財務相に勝利した。これでマーガレット・サッチャー、テリーザ・メイに続き、英国で3人目となる女性宰相が誕生することになる。

しかし、勝利の喜びは束の間であり、エネルギー料金の高騰をはじめとする生活費危機に襲われた英国で、1950年代のスエズ危機(※1)以来となる経済的な大問題への対応という厳しい現実が待っている。たとえば、2022年10月には、4月からたった半年の改定で電気・ガスのエネルギー年間価格の上限が、平均家庭の消費量の場合で1,971ポンドから3,549ポンドと、80%以上も上昇する。さらに来年4月には6,000ポンド(約100万円)近くにも跳ね上がることが予想されている。コロナ危機による行動制限の緩和でガスの需要が急増したうえ、ロシアからの供給に懸念が生じたため、エネルギー価格は急速に上昇しており、40年来の高水準となる10%を超えるインフレの主因となっている。

ただここで鍵となる「平均家庭のエネルギー年間価格の上限」が、どのように定義されるか明確に把握している人は英国でも少ない。筆者ものその一人であり、毎月の電気・ガス代は、どう見てもこの上限を12ヵ月で割った料金よりも高い傾向にあることに首をひねっていた。そこで調べてみると、ここで算出する平均家庭の人数は英国統計局の定義では2.4人となっている。つまり子供がいるなど世帯人数が多い家庭は、(電気・ガス使用量が増えるために)この上限料金よりさらに高額な電気・ガス代を支払っている可能性が高く、多くの英国民の生活費が圧迫されていることが想定される。

ちなみに筆者の家では真冬でも室温は22度以上に設定せず(夜は17度設定)、電気もメインの照明は一切使わず、間接照明しか利用しない(無駄な暖房・照明は、“Save Energy”の掛け声とともに娘に強制的に消される)。寒さと暗さに耐性がある北欧出身者に多いエコ・ライフスタイルであるにも関わらず、料金は平均的な使用量での上限よりも高くなっている。無論、真冬の英国で、室温17度設定で寝るのは南関東出身者としては慣れるまで時間が掛かったのはいうまでもない。

トラス新首相は、党首選の結果発表後の演説で、減税や経済成長に関する大胆な計画を実施し、エネルギー危機に対応し、エネルギー料金の支払いに苦心する人々を支援すると同時に、エネルギー供給に関する長期的な問題に取り組むことを約束した。党首選当初は、生活費危機の最中でも「ばらまき給付」に抵抗を見せていたが、世論の圧力に屈し、9月21日に予定されている臨時予算で支援パッケージを可決させるとみられている。トラス新首相はサッチャー元首相の信奉者として知られるが、首相に並ぶほどの人物ではないとの評価も多い。ただし、ともに党首選に挑んだ際に勝ち目なしと見られていたという共通点があることは確かだ。英国を戦後の労組、産業界の協調体制から脱却させたサッチャリズムのような大胆かつ過激な政策を断行する意志の強さや粘り強さを、エネルギー危機の最中に発揮できるのか、今後の政権運営に注目したい。

(※1)エジプトのスエズ運河の領有を巡って起こった第二次中東戦争。エネルギー不足が深刻となり英国はガソリンの配給制が導入された。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫