一極集中から新たなステージへの兆し
2022年08月30日
一極集中といわれてきた東京都の人口に変化の兆しが見え始めている。東京都では他の道府県との間で転入者数が転出者数を上回る社会増の状態が続いてきた。ところが、2019年に8万人を超えていた社会増は20年に3万人程度まで縮小し、21年は約4千人にとどまっている(※1)。社会増減を23区と23区以外の地域に分けて見ると、23区以外では小幅な社会増が続いているのに対し、23区の社会増は急速に縮小し21年は社会減の状態になっている(図表1)。東京都はすでに出生数が死亡数を下回る自然減の状態にあり、社会増が縮小した21年の東京都の人口は、今世紀になって初めて対前年比で減少となった。
東京都の人口の社会増減をもう少し長い期間に広げて見ると(日本人のみ)、1960年代後半から90年代半ばにかけては社会減の状態が珍しくなかったことが分かる(図表2)(※2)。東京都に隣接する3県(埼玉、千葉、神奈川)との間の増減をこれに重ねて見ると、戦後の経済成長などに伴って東京都に集中した人口が、次第に東京圏全体に広がっていった様子がうかがえる。その後、バブル経済崩壊後の停滞が長引く中で、東京都と隣接3県との間の増減はほぼ均衡し、主に隣接3県以外からの転入超過が東京都の人口を押し上げてきた。しかし、2020年以降、隣接3県への転出者数が増加し、東京都への転入者数は減少している。
転入と転出の状況を年齢層に分けて見ると(日本人のみ)、進学や就職に関わる移動が多い「15~24歳」の年齢層で転入者数が転出者数を大きく上回っている(図表3)(※3)。新型コロナウイルス感染が拡大した2020年と21年には、幅広い年齢層で転入者数の減少や転出者数の増加が見られ、移動者数が多い「25~34歳」の年齢層も21年は転出超過に転じている。一方、各年齢層の移動者数の推移に目を向けると、いくつかの年齢層で2015年前後から転入者数の減少や転出者数の増加が見られていた点に特徴がある。一極集中から新たなステージに向けた動きは、コロナ禍が広がる以前から始まっていた可能性もある。
情報通信機能や物流網の発達などに伴って、働く場所や暮らす場所を制約する要因は少なくなっている。内閣府が公表している「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(※4)」を見ると、東京23区の20歳代を中心に地方移住への関心が高まり、その関心は東京圏全体にも一定の広がりがあると推察される(図表4)。コロナ禍が働き方や暮らし方を見つめ直すきっかけとなり、自然豊かな環境や生活重視のライフスタイルを望む人々が増えているとすれば、高度成長期や停滞期の延長線上にある発想や価値観を変え、新たなステージに向けた政策や戦略を展開していくことも必要であろう。
この数値は「東京都の人口(推計)」に基づいているため、「住民基本台帳人口移動報告」とは必ずしも一致しない。
また、「社会増減」は他の道府県との間の移動増減を指し、都内間の移動増減や出国・入国等の数値を含まない。
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