米国のインフレ率が高止まりする可能性に要注意

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2022年08月25日

  • 野間口 毅

8月12日の米国市場ではNYダウとS&P500が、いずれも年初に付けた高値から6月半ばに付けた安値までの下げ幅の「半値戻し」を達成した。ある投資調査会社のデータによると、S&P500について第2次世界大戦後の13回の弱気相場を見る限り、半値戻し達成後に一段安となったケースはないという。また、相場の格言の一つに「半値戻しは全値戻し」というものがあることから、米国市場では年後半に向けて株高が続くとの期待が高まっている。

米国株が今年前半に下落した要因の一つは、原油高によるインフレ懸念を背景に米長期金利が年初の1.5%台前半から6月半ばに一時3.5%近辺まで上昇したことだった。しかし、WTI原油先物価格が6月半ばの1バレル=120ドル台をピークに反落し、全米平均のレギュラーガソリン価格も6月半ばに付けた過去最高の1ガロン=5ドル台から反落すると、原油高主導のインフレ懸念が後退して長期金利が反落し、株価は反転した。さらに、パウエルFRB議長が7月末のFOMC後の記者会見で利上げペースの減速を示唆したことや、米労働省が8月10日に発表した7月のCPI(消費者物価)上昇率が鈍化したことも、NYダウやS&P500が「半値戻し」を達成する原動力になったと考えられる。したがって、年後半に向けて株高が続くための条件の一つは、インフレ懸念の再燃による「悪い金利上昇」が起こらないことだろう。

米バンク・オブ・アメリカが8月16日に公表した8月の機関投資家調査によると、今後1年間でインフレ率が鈍化すると予想した投資家の比率は88%に達し、2008年に発生したリーマン・ショック時以来の高水準となった。一方、大和総研ニューヨークリサーチセンターの矢作主任研究員は8月19日付けのレポート「米国経済見通し インフレ頭打ちは本当か」で、「住宅価格を含む、短期的に価格変動しにくい品目を集めた粘着価格CPIは上昇し続けている。粘着価格CPIが減速しなければ、消費者の期待インフレが高水準で定着し、インフレが高止まりするリスクは残ることになる」と指摘している。年後半の米国市場ではインフレ率が高止まりする可能性に加えて、その結果バイデン政権の支持率が回復せず、11月8日の中間選挙で与党・民主党が下院または上下両院で過半数を割り込む可能性に注意が必要だろう。

NYダウと米10年物国債利回り

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