自動車の半導体不足は解消しつつある?

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2022年08月08日

自動車産業などの減産の要因となっている半導体不足は解消しつつあるのだろうか。トヨタ自動車は半導体不足を理由として、2022年4月に約15万台の減産(海外含む、年初計画比)を見込んでいたが、5、6月は同約10万台となった。7月には半導体以外の部品調達難の影響を含めても同約5万台まで縮小した。8月は新型コロナウイルス感染拡大もあって減産幅が拡大する見込みだが、半導体不足の解消の兆しは徐々に表れているようだ。

鉱工業指数(経済産業省)における4-6月期の集積回路(半導体部品)の在庫率指数は119.9と9年ぶりの高水準となった。またサスケハナ・フィナンシャルグループの月次調査によれば、半導体のリードタイム(製品の発注から納品までにかかる時間)は6月に短縮に転じた。こうした現状を踏まえ、以下では半導体需給の直接的な測定を試みたい。

半導体の供給は生産動態統計(経済産業省)で把握できる。需要については国内と国外に分けて考える必要があるが、このうち国外需要は貿易統計(財務省)から読み取れる。国内需要の推計はやや複雑だが、産業連関表(総務省)で各製品に投入される半導体の金額が分かるため、これを生産実績や製造工業生産予測調査(経済産業省)の生産計画と組み合わせることで国内需要を把握することができる。試算結果を見ると、国内需要と国外需要(純輸出)を合計した半導体需要は2021年央から供給を下回っている。各業種の生産規模が計画通りだったとしても半導体の在庫が積み上がっていたことになるから、マクロで見れば半導体の引き合いは弱まっているといえる。

ただし、半導体需給の緩和は一部の製品向けに限られているようだ。鉱工業指数における集積回路を品目別に見ると、在庫率指数が高まっているのは主にPCやスマートフォンに用いるロジック半導体である。鉱工業指数では自動車に用いられる半導体「マイコン」のデータは更新されていないが、前述の通り自動車産業で供給制約が継続していることを踏まえると、マイコンの需給は依然として逼迫しているとみられる。

感染が世界的に拡大した2020年に、半導体メーカーの生産能力はテレワークや巣ごもり需要に対応するべくPCやスマートフォン向けの半導体に振り向けられた。さらに2021年3月のルネサスエレクトロニクス生産子会社の工場火災や同年夏の東南アジアでの感染拡大により、車載用半導体の供給は一段と減少した。他方、足元ではロジック半導体の需給の緩和を受け、生産能力が再び車載用半導体に向く可能性がある。自動車の生産体制が回復すれば、減産によって蓄積したペントアップ(繰越)需要の発現もあって自動車生産は急速に増加するだろう。主力の自動車産業の復調を軸に、先行きの国内景気は大方の予想よりも悪くならない可能性が示唆される。

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岸川 和馬
執筆者紹介

経済調査部

エコノミスト 岸川 和馬