グラデーションをありのままに

~発達障害への理解と緩やかな共感を~

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2022年06月27日

  • 大川 穣

東京パラリンピックで身体障害を抱えるアスリートだけではなく、発達障害を抱えるアスリートの活躍を目の当たりにするなど、「発達障害」がメディアで取り上げられる機会が格段に増えてきたように感じる。

筆者は最近、発達障害を抱える子どもへの支援をテーマとしたテレビ番組を視聴した。NHK教育テレビで週1回レギュラー放送化された「でこぼこポン!(※1)」である。発達障害を抱える子どもや発達にでこぼこのある子どもが社会生活を送るうえで大切なスキルを分かりやすく伝えている。

「でこぼこポン!」では、発達に特性のあるキャラクターが対処方法を学んでいくのであるが、例えば、“予定の変更が苦手”なキャラクター“ぼこすけ”が、予定していた時間にゲームをやろうとするが、ゲーム機が壊れ、突然机を強く叩き怒り出すシーンがある。

子どもが発達障害を抱えているか否かに関わらず、予定通りに物事が進まないことで子どもは気持ちの切り替えが進まず駄々を捏ねるなど、ありがちなシチュエーションである。人によっては、「我慢ができない子」「融通が利かない子」はたまた「家庭でのしつけが出来ていない」と映るかもしれない。それは、発達障害はグラデーションと言われ、発達障害を抱える人と発達障害ではない人には明確な線引きがあるわけではないからだろう。

この場面で、仲間は“ぼこすけ”に、”じゃあ、予定をかえることができるようにあらかじめ考えておくのは?”と言う。仲間の声掛けは、具体的なアドバイスであるし適切な接し方だと思う。その後、彼は他の予定を考えるきっかけをつかみ、あれこれと予定を想像し、その行動を楽しめるようになっていった。変化に対応できた時はそれが自信となり、そういった行動の積み重ねが自己肯定感を高めることにつながるのだと思う。番組の中での有効な対処方法の紹介はさることながら、他のキャラクターが共感し、ゆっくりと対処方法を伝える一連のやりとりが印象的である。

2016年に発達障害者支援法が施行改正(※2)され、「発達障害者の支援は、社会的障壁の除去に資することを旨として、行われなければならない。」点が明記された。「社会的障壁」とは、障害を抱える人が日常生活や社会生活を送るうえで直面する不利益である。発達障害を抱える人が社会生活で生きづらさを感じる要因は、現在の社会のルールや認識がバリアを作っており、障害を抱える人からすると自身の行動は理解されにくく、困りごとと整理されるケースが多分に存在しているからであると考える。一方で、社会の側から本人の特性に寄り添った接し方が促されれば、それだけで本人のストレスは減り、社会生活の中で本来の持ち味を活かしていけると思う。

発達障害は先天性のものであり、早い時期から適切な支援を受けることで症状は改善することが分かっている。そのため、資格や学位を持った方の直接的な支援に止まらず、幼少期から家庭、学校、地域など、それぞれ関わり合いのある周囲からの理解と緩やかな共感がこれまで以上に進んでいくことが、間接的ではあるが発達障害を抱える子ども達への力強い支援となるはずである。

発達障害を抱える人もそうでない人も、同じグラデーションの中でそれぞれ二つと無い特性をもっている。一人ひとりが生まれ持った特性を活かせる社会を創造するために、一歩先にある社会の価値観に敏感になる必要がある。

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