信心深きミャンマー国民への期待

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2022年06月21日

  • 佐藤 清一郎

ミャンマーでは、一般国民でも軍人でも、また、職場での地位などに関係なく、多くの人が上座部仏教を信仰し、現世で徳を積むことで良い来世へと導かれると信じている。徳を積むとは良い行いをするということで、代表的なものは、僧院への寄付、修行僧へのお布施であるが、それにとどまらず、日々のお祈り、様々な場面での寄付、他人への思いやり、ボランティアなども含まれる。ミャンマーで寄付やボランティアが盛んなことは、英国のチャリティー機関(Charities Aid Foundation)の調査でも確認できる。この調査では、(1)見知らぬ人、あるいは、助けを必要としている見知らぬ人を助けたか、(2)寄付をしたか、(3)ボランティアをしたか、の3項目を調べている。世界の128カ国を対象に、2009年から2018年の10年間をまとめた結果によると、ミャンマーは、3項目総合では、米国に次いで2位、内訳別では、項目(1)49位、項目(2)1位、項目(3)3位となっており、寄付やボランティア項目の順位が極めて高い。ちなみに日本は、3項目総合107位、項目(1)125位、項目(2)64位、項目(3)46位で、ミャンマーとは、かなり様子が異なる。

他人への思いやりやボランティアの精神は、2021年2月1日未明に発生した軍事クーデターへの抗議でも発揮された。デモ参加者が警察や国軍に追い詰められた際には、襲撃されたり逮捕されたりしないように、近くに住んでいる人が、かくまったり、逃げ道を教えたりしていた。また、混乱の中で食料に困っている人がいれば、無償での食料提供を行っていた。軍事クーデターへの抵抗が長期化しているのは、若者を中心とした民主化意識の高まり、インターネットやスマートフォン普及による情報伝達の利便性向上などが影響していると考えられるが、その他では、やはり、他人を思いやる気持ちが強くボランティア精神に溢れているミャンマー人のマインドがあると思われる。

軍事クーデターによる政情不安は、経済に暗い影を落としている。国内企業や現地進出の外国企業の一部は、操業停止や廃業を決め、また、ミャンマーへの投資を考えていた外国企業の中には投資を延期もしくは中止したところもある。多くのミャンマー人が職を失ったり給与が減少したりしている状況下、供給ショックや通貨安などによるインフレが彼らに追い打ちをかけ、生活は、日々、苦しくなっている。

一日も早くミャンマーに安寧な日々が訪れることを願うばかりだが、現状、国軍は治安維持などを理由に民主派への締め付けを強める一方で、民主派側も、自らを組織して国軍への抵抗を続けている。それぞれが、自分たちは良いことを行っていると信じているのだろうが、現実は、紛争により多くの命が失われ、また、道路や建物などに多くの損害が出ている。国軍も一般国民も、自らの正義を貫きたいとの思いがある一方で、紛争の惨状を目の当たりにして、葛藤もあるはずである。

紛争解決に向け、外国政府、国際機関などのサポートは重要だが、最終的に国家のあり方を決めるのは、そこに住む国民である。多様性が叫ばれている世の中、ミャンマーの人々には、他人を思いやる気持ちの強さという特性を生かして、国軍と民主派、国軍と少数民族という対立の構図を乗り越えて、共生への道を探ることを期待したい。これこそが、ミャンマーの人々が、日々願ってやまない現世で徳を積む行いなのではないだろうか。

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