ともに難局に立つジョンソン首相とプーチン大統領の支持率は好対照

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2022年06月09日

英国では、6月2日から4日間、エリザベス女王の在位70年記念式典、いわゆるプラチナ・ジュビリーにちなんだイベントが各地で開催され、お祭りムード一色となった。筆者も地元のイングランド国教大聖堂で開かれた祝賀イベント(エリザベス女王は同教会の首長でもある)などに参加し、コロナ危機によって2年以上我慢の時を過ごした英国民と一緒に、久しぶりに明るい英国の雰囲気を味わった。

ただ今回のイベントで浮き彫りになったのが、在位70年を通じ人気の衰えないエリザベス女王と好対照なジョンソン首相の不人気ぶりであろう。その最大の理由はロックダウン期間中に首相官邸や省庁内で飲食を伴う一連のパーティーが開かれていたという不祥事、「パーティーゲート」である。セントポール大聖堂での在位70年記念礼拝に首相夫妻が出席しようとした際に、大聖堂の回りにいた多くからブーイングが起こるほど、英国民の怒りは激しい。

ジョンソン首相の支持率は、ブレグジットの実現が実質的な選挙争点となった2019年12月の総選挙での大勝以降、ピークで6割を超えた。ただし、コロナ危機対応での不手際に、「パーティーゲート」もあり、2022年1月中旬には支持率が2割近くまで低下した。加えて、ロシアによるウクライナ侵攻への毅然とした対応で、支持率はいったん持ち直したが、4月以降、再度3割を割り込んでいる。

支持率低迷のもう一つの原因は、急速に進むインフレによる国民の生活苦である。英国ではロシアのウクライナ侵攻が長期化した影響で食品・エネルギー価格が高騰している。この秋にはエネルギー不足で計画停電の可能性が指摘され、レギュラーガソリンも1リットル1.8ポンド(約300円)を突破する小売店が出てくるなど、政権への不満はピークに達している。外食などは殆どしない一介の駐在員である筆者にとっても、スーパーでの買い物の度に上がる食料品価格は脅威である。娘に作る献立を思案しながら、どの食材が一番安くて美味しいか、各スーパーを比較しての調査にも自ずと熱が入る(ちなみにパスタでテスコの右に出るものはない)。

一方、西側諸国の制裁発動により、国民の日常生活に大きな制約がかかったにもかかわらず、プーチン大統領の支持率は相変わらず高い。独立系世論調査会社レバダ・センターによると、ウクライナ侵攻開始直前には7割ほどだった支持率は、軍事作戦の長期化にもかかわらず8割を超えている(反体制側の国民がウクライナ侵攻を機に大挙して国外に一時退避したという事情もあるが)。また英国と同じインフレでもロシアでは、ルーブル高の恩恵がある。西側諸国の制裁発動後に3月に1ドル=139ルーブルまで暴落したルーブルは、ロシア中銀の資本規制などの一連の対策により、5月には1ドル=58ルーブルまで回復した。インフレ率は5月7日からの一週間はわずか0.05%の上昇に留まり、制裁発動直後の1週間で2.22%上昇した時と比較して大幅に減速している。筆者は仕事柄、ロシア在住者とのミーティングも多いが、少なくとも物価上昇による生活苦などはあまり感じられない。英国とロシアとどちらが制裁対象か分からなくなる。

英国内では、国民の怒りは保守党議員をも動かし、6月6日には、保守党議員によるジョンソン首相への不信任投票が実施された。結果は信任211票、不信任148票で否決されたものの、造反者は想定以上、議員の3分の1を超え、首相の求心力は著しく損なわれたと言っても過言ではない。ブレグジット実現により10年は安泰といわれていたジョンソン首相が、メイ元首相のように辞任を余儀なくされるのか、もしくはメージャー元首相のように、総選挙で敗北を招き有権者に引導を渡されるのかが今後の注目点となるだろう。

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫