では、DXとは何をやればいいのか?

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2022年05月30日

経済産業省は2020年11月にデジタルガバナンス・コードを発表した。今DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進は投資家からも注目も浴びる重要な経営課題である。しかし、今更ながら、DXとはそもそも何だろうか?具体的に何をやればいいのか?マネジメントの立場でこれを考えるならば、一般的な問いとして考えるべきではない。つまり、「わが社の」DXとは何だろうか?「わが社は」DXで何をやればいいのか?と問うことから始めるべきである。

とはいえ、それが何かを簡単に回答できるのは、まだ一部の会社であろう。正直、具体的に何をやればいいのかわからない会社は多いと思われる。実際DX-Ready(※1)の会社も多い。全体像がつかめないときにどうするか?分解してみるのが一つの方法である。DXでの成功例と言われるものは、いくつかの要素を複合的に体現している。ここでは主に次の5つの要素に分けてみる。

① 顧客の体験価値を更新する
② 旧来型ビジネスを補完する
③ データドリブン経営を行う
④ 事業コストを削減し、事業スピードを加速化する
⑤ リスクを低減する

①については、DXで旧来型のビジネスモデルを破壊するような試みだ。DXと言うとメタバース(※2)、ブロックチェーン(※3)、AI(人工知能)に代表される最先端技術を思い描く人が多いし、実際にそれらはビジネスのありようを変えている。しかし、例えばSNS機能による顧客コミュニティの構築など、比較的成熟したデジタル技術でも、分野次第で顧客の体験価値の更新は可能だと考えている。

②については、DXが逆に旧来型のビジネスをアシストする試みである。例えばリアルの店舗運営とデジタル上の集客サービスを組み合わせることで顧客ロイヤリティを高めるような仕組みだ。

③については、今まで数値化が不可能だと思われてきたもののデータ化が進み、また利用されていなかったデータについても様々な分析手法が開発されている。しかし、真に経営に生かすには、有効な仮説が必要であり、仮説を立てるのは、今のところやはり人間である。データドリブン経営には、いわゆる仮説思考の経営がますます重要になってくる。仮説を持った経営者とそれを検証するデータサイエンティストの連携を密にする必要がある。

④コストと時間の削減効果は特にRPA(※4)などの導入で目覚ましく進歩を遂げている。また、様々なクラウドサービスが開発されているので、比較的取り掛かりやすく目に見えやすい分野だ。事業スピードといった場合、特に成長期にキャッシュの枯渇に直面しないよう、CCC(※5)を意識したビジネスモデルを考えることも重要である。

⑤についてはいわゆる「2025年の崖(※6)」の回避とセキュリティリスクを軽減することである。レガシーシステムの負の側面を直視し、シームレスにシステム投資のありようを切り替えていき、それに適合した人材を育てていく必要がある。

DXは、かようにいくつもの要素を複合的に持っている。したがって自社の置かれた状況を踏まえて①~⑤のどの要素に重点を置いた戦略を取るか熟考する必要がある。例えば異業種からの破壊的イノベーターとなりたいなら①の戦略であろう。それを迎え撃つ既存の市場を守りたい側ならば②の戦略である。マネジメントは、状況を分析し、重点を決めたのちに、DXへのビジョンを示し、全社にDX理念を浸透させる。そして、計画を立てて、組織づくりを行い、経営資源を投入すべきである。

(※1)DXの準備段階にある会社のこと。
(※2)仮想空間のこと。ゲーム、コミュニケーション・ツール、バーチャルモールなどへの活用が期待されている。
(※3)分散型暗号台帳システム。仮想通貨の根幹技術だが、それ以外にも様々な分野への応用が期待されている。
(※4)ロボット(プログラム)による作業プロセス自動化処理のこと。
(※5)キャッシュ・コンバージョン・サイクル=売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-買入債務回転日数、のこと。
(※6)2025年には、既存のシステム環境を維持することが、データ量の増大や人員の確保などから困難になることが指摘されている。

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江藤 俊太郎
執筆者紹介

コンサルティング第三部

コンサルタント 江藤 俊太郎