米国株式市場の注目点

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2022年05月26日

  • 野間口 毅

5月第3週(16~20日)のNYダウは8週連続で下落した。これは、世界恐慌下の1932年以来90年ぶりの連続下落だという。

NYダウが直近で最後に過去最高値を付けたのは年初の1月4日だが、翌5日に公表されたFOMC議事要旨(昨年12月開催分)でFRBが金融政策の正常化を前倒しで進めるとの見方が強まったことをきっかけに下げに転じた。その後、2月24日にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始したことや、「ゼロコロナ」政策を掲げる中国が3月28日から上海市で都市封鎖(ロックダウン)を開始したことなども株安要因となった。しかし、NYダウが年初をピークに下げに転じた最大の要因は米国の金利上昇だろう。

一般的に金利はPER(株価収益率)と逆相関の関係にあるが、米国株のPERと金利の関係を調べると、名目金利よりも実質金利との連動性が高い。コロナ禍以降、10年物の名目金利が上昇しても実質金利はマイナス1%前後の水準で低位安定していたことがPERの高位安定に寄与したことに加えて、コロナ禍から回復した米国企業の増益基調が年初までの米国株高をもたらしたと考えられる。しかし、年初以降は名目金利と並行して実質金利も上昇し、米国株のPERは低下に転じた。

金利が上昇してPERが低下しても、それ以上に企業の増益が見込めれば株高は続くはずである。過去にも金利上昇と株高が共存する「業績相場」は存在した。しかし、それは金利上昇が景気拡大のシグナルである場合に限られる。年初来の米金利上昇は景気拡大のシグナルではなく、FRBの利上げ加速や量的引き締め(QT)観測を反映したものである。さらに、足元ではFRBの過度な金融引き締めが米国の景気後退につながるという警戒感も高まっている。実際に、10年物の名目金利や実質金利の上昇は5月上旬をピークに一服しているが、5月6~11日にブルームバーグが実施した月間エコノミスト調査によると、向こう1年間の米景気後退確率は30.0%と4月の27.5%から上昇し、約1年半ぶりの高水準となった。また、5月13日にフィラデルフィア連銀が公表した四半期毎の専門家による予測調査でも、1年後の米景気後退確率が25.5%と前回調査の18.1%から大幅に上昇し、約2年ぶりの高水準となった。米国株の再上昇には少なくともFRBの金融引き締めスタンスが和らぎ、景気後退観測が低下することが必要と考えられる。

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