フィジカルインターネットによるビジネス変革
2022年05月17日
フィジカルインターネット構想がグローバルで進行している。
物理的インターネットといっても何のことやら、ただちに想像し難いが、要は、インターネット通信の考え方を物流に適用した、次世代物流システムである。
現在の物流は、自社が取り扱う荷物を基本的には自社のトラックが運んでいる。また、特定の荷主の荷物が一つのトラックを占有することも多い。そこでは常にトラックを満載することは難しく、どうしても効率が上がらないことが問題となっている。
これは、通信の世界から見ると、端末間で一つの回線を専有する回線交換方式とよく似ている。この方式は一定の通信品質は確保できるものの、回線の利用効率は低い。一方、インターネットでは、通信データを小分けにして送るパケット交換通信を利用している。一つの回線で複数の通信が可能となり効率が改善した。加えて、多数の通信事業者のネットワークをつなぐ(相互接続)ことで、拡張性も格段に高まった。
フィジカルインターネットはこの考え方を取り入れ、荷物を小分け(パケット)にして、複数の物流会社が一つのトラックをシェアし、全体の積載効率を上げることを狙ったものだ。さらに重要な点は、各拠点(ルーター)で複数事業者の輸送ネットワークがつながり(相互接続)、小分けされた荷物が、最適なルートを経由して受け手に届くことである。物流企業は、このネットワークインフラを提供するとともに、その上で様々な物流サービスを提供することになる。例えば、電子メールのように、簡単なアドレスを指定するだけで物を届けられるようになるかもしれない。
複数の荷主による共同配送の動きは、F-LINE(※1)等で既に始まっている。とは言え、まだ限定的な範囲にとどまっており、こうした動きから全体への広がりを期待することは難しい。フィジカルインターネットは、デジタル連携を含む、様々なレイヤーに属するプレイヤーが協力し、社会・経済全体を巻き込んだ改革が求められる究極の共同配送システムと言える。
実は、本構想は米モントルイユ教授により概念が発表されてから10年以上が経過しており、既に欧米においては具体的な取り組みが進んでいる。日本でも、ようやく昨年、経産省の主導でフィジカルインターネット実現会議が開催され、この3月にはロードマップが発表された。目標は2040年と定めたが、実現に向けた課題は、いちいち上げたらきりがないほど山積しているのが現状だ。
この仕組みには、物流が持つ様々な機能の標準化、規格化が必須条件である。例えば、パケットに相当するスマートボックスにしても、日用品から、農産物、建材など、世の中の全ての物を収められる標準のボックスなんてあり得ない。ましてや運送業界では、今もなお、電話・FAXが主役の座を降りていないのが現状である。現場を知る人ほど、その実現は夢物語に聞こえるかもしれない。
とは言え、ここではあまりネガティブにならず、前向きに妄想しようと思う。
モントルイユ教授は、「物を動かす部分ばかりが注目されがちだが、フィジカルインターネットはもっと広義なコンセプトであり、商品の実現や展開方法、製造、組み立て、梱包、パーソナル化、再利用などが含まれる。」と言っている(※2)。
インターネットでは、様々なアプリケーションやサービスがマーケットを爆発的に広げた。そこから類推すれば、フィジカルインターネットにおいても、単に物を運ぶだけでなく、そこに付加するアプリケーションやサービスが市場成長のカギとなるかもしれない。
例えば、製品の製造や品質管理などの機能をフィジカルインターネット上のサービスとして物流事業者が提供すればどうなるだろう。メーカーは、製品の企画、開発・設計、及び、広告・販売に注力できる。ファブレス企業は今でも多いが、それをフィジカルインターネット上で手軽に実現できる。広告・販売でさえ、ネットワーク上に載せることもあり得る。ブロックチェーンを使って、商流、金流の統合も可能だ(※3)。
物流企業のビジネスモデルも大きく変わらざるを得ない。インターネット初期においては、エンドユーザーにインターネットを提供するISP事業者が注目されたが、現在は、SNS等、インフラ上でサービスを提供するビジネスが花形だ。フィジカルインターネットにおいても、インフラを提供する事業はその存在感を落とし、替わりにそのネットワーク上でサービスを提供する事業が市場の主役となる可能性がある。
その時は、おそらくフィジカルインターネット2.0と呼ばれるのだろうか。
(※1)加工食品メーカー6社による共同配送プロジェクト
(※3)実際に、ICONET projectではブロックチェーンによる決裁が構想されている
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 神谷 孝
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