資源価格の上昇と物価の「歪み」

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2022年05月16日

  • 永井 寛之

インフレーションに対する懸念が世界的に強まっている。物価をみる上では、一般物価(=全体の物価水準)と相対価格(=個々の品目の価格)を区別して考える必要がある。一部の品目の価格が上昇しているからといってインフレであるとは必ずしもいえず、価格メカニズムがどの程度機能するかによって相対価格が一般物価に与える影響の大きさは変わる。

実際に財やサービスの価格の動きを見ると、生鮮食品のように需給に応じて柔軟に変化する品目がある一方、新聞のように長期間にわたって価格が据え置かれる品目も少なくない。こうした品目は価格の粘着性が高いといわれる。ある品目の価格が上昇すると、その品目の需要と所得に変化がなければ、可処分所得が減少し、それ以外の品目は需要減少を通じて価格が低下することで、長期的には一般物価に影響を与えないと考えられるが、短期的には価格の粘着性により価格調整が進みにくく、一般物価が上昇することになる。家計や企業は相対価格をシグナルとして経済活動を行っているため、相対価格が需給を反映して変化しないことは資源配分に歪みをもたらし、経済全体の厚生水準が悪化する。

そのため、インフレ局面では家計や企業の負担増だけでなく、品目ごとの価格上昇のばらつきを示す相対価格の歪みがもたらす経済活動への悪影響にも注意を払う必要がある。図表は宮尾・中村・代田(2008)(※1)の手法に基づいて相対価格の歪みを計測し、時系列の推移を示したものである。数値が高いほど相対価格に歪みが生じている状態を表す。1997年や2014年に数値が一時的に上振れしているが、これは消費増税の影響が反映されている。こうした時期を除くと、数値はリーマン・ショックが発生した2008年は1990年代以降の最高水準を記録し、調整には数年程度を要した。未曾有の経済危機のショックに加え、東日本大震災や円高など企業を取り巻く厳しい外生的な要因が調整の長期化に寄与したと考えられる。

足下での推移を確認すると、相対価格の歪みは大きくなっており、前述した2008年の水準よりも高くなっている。宮尾・中村・代田(2008)でも一般物価が上昇する局面では、相対価格の歪みは大きくなる傾向があると指摘している。この理由としては、例えば資源価格が上昇すると、市場支配力が高い企業は転嫁できるがそうではない企業には転嫁が難しいことなどが指摘できる。

ウクライナ問題の長期化などの影響で資源価格が高水準で推移するなど、一般物価が上昇しやすい状況は続くだろう。資源高が加速すれば、相対価格の歪みの増大を通じて社会厚生を悪化させる可能性があるので、今後もこの動向に注視が必要だ。

(※1)宮尾龍蔵・中村康治・代田豊一郎(2008)「物価変動のコスト——概念整理と計測——」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.08-J-2

相対価格の歪み

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