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可視化されたグローバルサプライチェーン

2022年05月12日

経済調査部 経済調査部長 山崎 加津子

日ごろ、身の回りのものがどのように作られ、運ばれてきたかを考えることはほとんどない。それに気づくのは、供給が急に止まった時である。東日本大震災の直後に、ヨーグルトや納豆の置かれていたスーパーの棚がからっぽになった光景は衝撃的であった。原因は物流網の寸断に加え、包装容器の生産ができないことにあった。当時は、他の生産拠点からの供給で商品不足は解消に向かった。

ここ2年あまり、グローバルサプライチェーンには次から次へと災難が降りかかっている。まずは新型コロナウイルス感染症のまん延と、感染抑制のための都市封鎖(ロックダウン)である。2020年1月の中国の武漢市で確認された感染拡大は瞬く間に欧米等まで伝播し、相次いでロックダウンが実施された。治療方法は確立されておらず、治療薬もワクチンも存在しない中で、人流と物流を大幅に抑制することはやむを得ない措置であり、感染のいったんのピークアウトには貢献したが、生産体制は大打撃を受けた。

その後は、感染のピークアウトを受けたロックダウンの解除・経済活動の再開と、感染再燃に伴う移動規制等の再導入が世界中で繰り返されている。2020年末以降、新型コロナウイルスのワクチン接種が進められているが、ウイルスは変異を繰り返しながら世界のあちこちで感染再燃を引き起こし、収束の兆しはまだ見えない。もっとも、多くの国では移動規制等の再導入に際して、最初のロックダウン時の反省を踏まえ、経済活動の停止範囲をできるだけ限定する対応がなされている。

とはいえ、経済活動の再開はグローバルサプライチェーンに別の負荷をかけた。ロックダウンが段階的ながら解除されると、極端に抑え込まれていた需要が急回復し、供給が追い付かない事態に陥ったのである。例えば世界的な半導体不足は、自動車等の生産回復を遅らせる原因となった。また、物流があちこちで目詰まりを起こし、供給体制の混乱を長期化させた。その一因はトラック運転手や港湾作業員の不足にあったが、背景にはコロナ感染リスクへの警戒が存在した。人手不足は賃金上昇につながり、モノ不足は製品価格上昇をもたらして、2021年半ば以降、世界的にインフレ圧力が高まった。

この状況下でロシアが2022年2月末にウクライナに侵攻し、西側諸国が一斉に対ロシア制裁を強めた結果、原油や天然ガスのエネルギー資源、パラジウムなどの金属資源、そして小麦を筆頭とする食料の供給懸念が台頭し、物価が一段と上昇した。加えて、コロナ感染の封じ込めに成功したと見られていた中国で新規感染者が急増し、複数の都市で厳しいロックダウンが実施されている。特に金融センターであるだけでなく、物流拠点としても重要な上海市が1カ月以上にわたってロックダウンされており、中国からの製品供給が滞っている。

天災・人災を含めて供給網の混乱を招くリスクはさまざまあるが、これまでは供給サイドがそれに対応することで、需要サイドへの悪影響を最小限に抑えてきたと考えられる。しかし、コロナ感染と対ロシア制裁に伴う供給網の混乱や価格上昇は、一部地域に限定された問題ではなく、供給サイドだけで解決することは難しい。複雑で繊細なグローバルサプライチェーンの存在が珍しく可視化されたこの機会に、その持続可能性について供給サイドと需要サイドの双方から検証する機会とするべきと考える。

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山崎 加津子

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