将来の妊娠に備える「プレコンセプションケア」の普及促進を
2022年04月25日
政府は2022年4月より不妊治療の公的医療保険の適用範囲を拡大した。国立社会保障・人口問題研究所(※1)によると、不妊に関する検査や治療を受けたことがある20-40代の夫婦は2015年で18.2%であり、それまでの10年間で上昇傾向が見られたという。さらに厚生労働省の調査研究事業として2020年に実施された実態調査(※2)によると、不妊治療を中断/終了したきっかけとして、妊娠(64.4%)に次いで、経済的な理由で治療をあきらめるケース(14.2%)が多かった。保険適用されたことで、不妊治療の受診・治療の総数は2022年度から増加ペースが加速するだろう。
一方、今回の措置は医療給付費の増加を通じて保険料負担の引き上げにつながる。妊娠を希望する人々の経済的負担の抑制と保険料負担の抑制を両立させるためにも、「プレコンセプションケア」の重要性が増すだろう。プレコンセプションケアとは、将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合い、健康な生活習慣を身につけることである。関連する医療機関では、妊孕性(妊娠のしやすさ)向上のための妊娠出産にまつわる正しい知識の普及啓発や、妊娠を見据えた妊孕性の診断などが行われている。
筆者がある病院でプレコンセプションケアの検診を受けたところ、将来的に子供を持つことを希望する女性に限らず、男性にとっても有益な検査であると感じた。病院によってメニューは異なるが、感染症等の抗体のチェックや栄養解析などを受け、その後医師や栄養士からアドバイスを頂いた。そこで得た情報は仕事上のキャリアと結婚・妊娠・出産を含めたライフプランを考えるうえで参考になった。しかし、検査費用は数万円と高額であり、休みを複数回にわたって取得する必要があることが継続的な受診のための課題と感じる。
厚生労働省の調査研究事業として2017年に実施されたアンケート調査(※3)を見ると、不妊治療を受けた者のうち、不妊治療と仕事の両立ができずに仕事を辞めた者が全体の16%、両立できずに雇用形態を変えた者が8%を占めた。治療を開始する年齢は30代前半が最も多く、働き盛りの従業員が不妊治療を理由に退職したり、能力を十分に発揮できなくなったりすることは企業にとっても大きな経済損失である。
政府は2022年4月に不妊治療と仕事を両立しやすい環境整備に取り組む企業を認定する制度(くるみんプラス認定)を創設した。企業は今後、不妊治療のための休暇制度の整備などを進めていくとみられる。こうした動きに加え、認知度の向上や受診しやすい環境整備など、プレコンセプションケアの普及促進についても官民で取り組む必要があろう。
(※1)国立社会保障・人口問題研究所(2015年)「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
(※2)野村総合研究所(2021年)「令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 不妊治療の実態に関する調査研究 最終報告書」
(※3)東京海上日動リスクコンサルティング株式会社(2018年)「平成29年度厚生労働省 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業」
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