2022年の年金改革がめざす「より長く多様に働ける社会」

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2022年04月12日

2022年4月、公的年金の制度改正が一部施行された。拙著コラム「公的年金、繰下げ受給を選択しませんか?」(※1)(2022年1月18日)で述べたように、従来は公的年金の受け取り開始は65歳を原則とし60~70歳の間で選べる仕組みだったが、4月からは上限が75歳に引き上げられた。受給を開始する時期を繰り下げれば、65歳から受け取る場合と比べて年金額が終身で増額される。受給開始を70歳に繰り下げた場合の増額率は42%、75歳まで繰り下げれば84%である。

在職中の年金受給については2点見直された。1点目は60~64歳の在職老齢年金制度(低在老)に関してである。これまで低在老では賃金と年金の合計が月額28万円を超えると年金が減額されていたが、2022年4月からは、この基準額が47万円に引き上げられた。低在老は受給開始年齢の65歳への引上げが完了(男性が2025年度、女性が2030年度)すれば消滅する仕組みではあるが、それまでの間、年金が減ることを嫌って就労する日数や時間を抑えて働いていた高齢者が働き方を積極化させると予想される。

2点目は在職定時改定の導入である。従来、65歳以上の老齢厚生年金受給者が厚生年金の適用事業所で就労する場合、その期間中に支払った保険料の給付への反映(年金の増額)は退職時もしくは70歳到達時まで実施されなかったが、この4月からは、在職中であっても年金額が毎年改定されることになった。在職中に年金額が増えるのであれば、就労を継続する意欲が高まるのではないか。

加えて、今年5月には、確定拠出年金(DC)の加入可能年齢の上限が引き上げられる。企業が掛金を拠出する企業型DCは65歳未満から70歳未満へ、個人が拠出する個人型DC(iDeCo)は60歳未満から65歳未満へ引き上げられる。DCは公的年金以外の老後に向けた資産としての重要性が高い。掛金の拠出とそれを運用する期間が長くなれば、より厚みのある資産を形成することができる。

今回の制度改正では、75歳までの繰下げ受給や、年金を受け取りながら働き続け、納めた保険料に応じて毎年増額される年金を受け取るといった選択肢が新たに追加された。DCは公的年金を受け取るまでの“つなぎ年金”と捉えられるケースもあるが、掛金の拠出期間をできるだけ長くすれば、公的年金に上乗せできる資産という意味合いが強くなる。年齢に関係なくより長く働くことに伴って年金の受け取り方を工夫できるようになることは、高齢期の経済基盤の支えとなる。

ただし、年金制度が整備されただけでは十分でない。人々がそうした選択肢を実際に活用するためには、高齢者がそれぞれの能力を活かして働ける社会でなければならない。現在、希望をすれば65歳まで働ける環境が一応は整備されてきたが、課題も少なくない。66歳以上となればまだまだであり、75歳まで働ける社会を実現するには、政府、企業、高齢者がそれぞれ相当の努力をする必要がある。

また、この課題は現在の高齢者だけの問題ではなく、若年層や壮年層を含むすべての世代にとっての問題である。なぜなら、あらゆる人々がいずれ高齢期を迎えることは確実であり、しかも、現在の現役世代は今の高齢者以上に長寿となり、高齢期が長期化すると見込まれるからだ。現役世代のうちから、到来する自らの高齢期にどう備えるのか、自分事として考えることがますます重要となっている中、希望に応じて75歳まで働ける社会をいつまでに、どのように作るのか。それは国民的・国家的な課題と言っても過言ではない。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 佐川 あぐり