日本の輸出構造が生んだ交易条件悪化の必然

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2022年04月11日

貿易の採算性を示す交易条件(輸出価格÷輸入価格)は急激に悪化し、2021年12月に7年ぶりの低水準を記録した(財務省「貿易統計」ベース)。資源高や円安による輸入価格の高騰が主因だが、輸出価格が伸び悩んだことも大きい。企業が輸出製品の価格を引き上げられれば交易条件は改善するが、現実には難しい。その背景には日本の輸出構造がある。

日本の輸出製品は、世界シェアが低く、激しい価格競争にさらされているものが多い。一般に、「産業内貿易」(ある国が同一産業で同種の製品の輸出入を共に行うこと)が盛んであれば、製品を差別化してその輸出に特化することでコストが抑えられ、市場シェアは高まりやすくなる。例えば、日独間で高級車のレクサスとベンツを互いに輸出している場合、両車種間で差別化が図られているため、日本でベンツが欲しければメルセデス・ベンツ・グループしか選択肢がなく、シェアを握るドイツ側は価格を操作しやすくなるという構図だ。

日本の貿易構造について、産業内貿易の指標であるグルーベル=ロイド指数(1に近いほど産業内貿易が活発、以下GL指数)から考察しよう。産業構造が近い日本・ドイツ・韓国の各産業のGL指数を輸出入額で加重平均すると、東西ドイツ統一直後の1991年は日本が0.13、ドイツが0.23、韓国が0.08であった(国連のデータより筆者試算、以下同)。その後は国際分業が深化し、同種の製品でも各国が独自に差別化を進めて産業内貿易を誘発したことで、2000年のGL指数は日本が0.29、ドイツが0.31、韓国が0.22と日韓が追い上げた。ところが2020年になると、日本は0.56、ドイツは0.80、韓国は0.67と、日本が相対的に出遅れた。

ドイツは欧州向けの輸出が中心で、先進国同士の産業内貿易を展開してきた。韓国は2000年代に、半導体技術を活かした液晶テレビや携帯電話機のほか、自動車など差別化しやすい品目で非価格競争力を磨いた。両国とも、所得や技術水準が近い国との間で、同価格帯の差別化された完成品を多く貿易している点がGL指数を押し上げた。他方で日本は、生産工程の細分化を目的としたアジア新興国向けの中間財・資本財輸出が多いため、GL指数の伸びが相対的に小さかった。特に部品類は差別化の余地が小さく、価格を引き上げるとシェアを失いやすい。

このように、日本の輸出価格は構造的に上がりにくく、輸入価格が急上昇すれば交易条件が悪化するのは必然であったといえる。一方、世界的な脱炭素化の加速や、コストよりも経済安全保障を重視した生産工程の国内回帰など、非価格競争力の強化の契機となる議論が活発化している。自動車や家電のように、脱炭素化や省エネなどとの相性が良い完成品分野では差別化の余地が残されているとみられる。製品差別化による産業内貿易の拡大をきっかけに、世界シェアが高まれば、交易条件の悪化に強い経済へと近づくことができるだろう。

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岸川 和馬
執筆者紹介

経済調査部

エコノミスト 岸川 和馬