動物ショーとアニマルウェルフェア

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2022年03月23日

  • 経済調査部 市川 拓也

日本で動物福祉と訳される「アニマルウェルフェア」は、動物を苦しませない、本来の自由を奪わないことに主眼が置かれる。例えば、窮屈な鶏のケージや豚の妊娠ストールに閉じ込めるような家畜飼育の仕方は、動物本来の行動がとれないことから、アニマルウェルフェアの観点では問題となる。

アニマルウェルフェアの広がりを示す昨今の例として、2021年11月18日にフランスでイルカショーやサーカスに野生動物を用いることを禁止する法案が可決された件があげられる。大統領の署名を経て発効されれば、2026年にはイルカショーが禁止され、2028年には野生動物を用いたサーカスができなくなるという。日本で同じような措置がとられればかなりの驚きであろうが、アニマルウェルフェアの国際的な進展を考えればむしろ自然な流れといえる。

たしかに、動物ショーは動物の自発的な意思に基づいて行っているわけではない。動物として自らとり得ないような動きを教え込まれ、何時たりとも野生に帰る自由はない。ペットである犬や猫のような人間とのコミュニケーションが必須の動物でないことを思えば、かなり理不尽なことを強いているように思えてくる。

しかし、サーカスにおける象の曲芸や水族館でのイルカショーは心を揺さぶる一大エンターテインメントであるのは周知のとおりである。自分よりはるかに大きな動物が、目の前で巧みな芸を披露する様子には感動すら覚える。こうした娯楽に親しんできた世代であれば、これらのショーを禁ずるというのはさすがに違和感をいだく者も少なくないであろう。

それでも世界の動きとしては動物を苦しませない「アニマルウェルフェア」の動きは進んでいる。家畜や動物ショーどころか、皮革製品を避ける動きさえある。日本ではアニマルウェルフェアの概念がいま一つ浸透していないが、海外では動物を苦しませるような行為に対する視線は厳しさを増している点は知っておく必要があろう。

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