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第三次大戦勃発のリスクすら漂うウクライナ情勢

2022年03月10日

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからというものの、憂鬱な日々が続く。がれきの山に変貌しつつあるキエフやハリコフなど、何が起こったのかを想像したくない光景が日夜報じられている。この紛争がどのような終結を迎えるのかは誰にも分からない。3回目の停戦交渉でもほとんど進捗がみられない現時点では戦争の長期化も視野に入り、地政学的リスクは確実に高まりつつある。

ウクライナ侵攻の影響は欧州に限らず随所に現れており、特に欧州からアジアに行く物流は既に滞り始めている。年末年始のオミクロン株大流行による人手不足も重なったのか、筆者がロンドンから昨年12月に出した航空郵便が、ようやく今年3月に東京に届くなどの混乱が続いている。欧州各国の飛行機はロシア上空通過を禁じられているため、日本を含めアジアに行くフライトのキャンセルが相次いでいる。

また、ロシアへの制裁により、金融市場の一部には既に金融危機を想起させるストレスの兆しが見えている。ドル建てロシア国債の利払い期限が3月16日に迫っており、選択的債務不履行(セレクティブ・デフォルト)に陥る可能性が高いことが指摘されている。しかも西側諸国の大規模な対ロシア制裁強化により、複雑なデリバティブ契約の決済にも混乱が生じる恐れもある。そのためCDS取引ではロシアのデフォルトに際し、十分なプロテクションが付与されない可能性も出ているという。ロシア政府は、対外債務返済をルーブルのみで一時的に認めているにすぎず、海外債権者(いわゆる非友好国の債権者)がどう反応するかは未知数である。とはいえ、制裁による影響はロシアに限らない。石油やガスの価格は上昇を続け、同様に食料品価格も高騰するなど世界的なインフレ圧力をさらに強めている。ウクライナ侵攻の結果が、西側諸国とロシアの経済圏の間に、深く長期的な分断を招くことになれば、さらに影響が長引く可能性がある。

また最近欧州で、指摘され始めているのが、第三次世界大戦勃発の可能性である。西側諸国は一連の武器をウクライナに供与しているが、ウクライナのゼレンスキー大統領は、激化するロシア軍の攻撃を防ぐには不十分として、戦闘機の必要性を訴え、NATO諸国に援助を求めている。しかし要請に応え戦闘機を供与すれば、ロシアはNATOがロシアとの直接的な紛争に踏み出したと解釈すると警告している。さらにロシア国防相は、ウクライナの隣接諸国に対し、国内の空軍基地をウクライナ空軍に利用させることは、武力紛争への関与とみなすと発言している。ただ米国ではポーランドまでの戦闘機の供与について、超党派の支持が集まっており、第二次大戦中に可決された連合国への軍事援助を行うための武器貸与法に似通った法制を検討する声もある。ウクライナ軍事力強化に向けできる限りのことをすべきという世論の支持もあり、政治的には難しくないという。とはいえ、経済制裁の影響で追い詰められたプーチン大統領が激高して、極端な策を取る可能性を指摘する声も増えつつある。

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菅野 泰夫

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シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫